タイトル「オレのこと好きなんだって?」

 

 

//背景 学校・廊下(夕)

 

──なぜか、オレは教室に忘れ物をした気分だった。
家の鍵、定期券、鞄、それらはきちんと持っているはずなのに、オレはなぜか帰らないといけない。
たしかにそう感じていた。
先生と遭遇したら面倒だから早足で廊下を駆け巡る中、ようやく教室を見つけた。

 

【桜路】
「放課後のガッコってヤなんだよなぁ。ヤンキーカップルとかがエロいことしてそうだし」

 

【桜路】
「現に隣クラスのヤツの机が、朝来たら二つ並べてあってその横にペーパー落ちてたらしいし……うざいわぁ」

 

【桜路】
「まあ、オレには関係ないけどね。エロいことしてたらSNSで拡散してあげることにしよう」

 

オレは教室の扉に手をかけ、ガラガラと横にスライドした。

 

//背景 学校・教室(夕)

 

──そこには、先客がいた。
黒髪のスレンダーボディ。
ワイシャツに下着のみという、ちょっと興奮する着衣エロ。
振り向かせた顔はどこか幼く、それでいて清楚を含んだ美少女フェイス。
こんな美しい人、この学校にいたっけ?
間違いなく、このクラスの女子ではない。
でもなぜか、その子はオレの机の上に体育着を置いて着替えていた。

 

【桜路】
「ど、どもッス……」

 

【???】
「なっ、なに見てるんですかぁッ!」

 

【桜路】
「え? と、というより……ここ、オレの教室なんだけど……」

 

【???】
「そんなこと知ってます! 最悪! いきなり下着姿見られるとか……ホントなにしにきたんですか!」

 

【桜路】
「忘れ物……あるかなって」

 

【???】
「はぁぁ……入る前にノックぐらいしてください!」

 

なぜ、オレは怒られてるんのだろうか?
いくら綺麗な子だからって同い年らしき人に怒られてハアハアする性癖は持ち合わせてない。
それと、スレンダー少女は頬をぷくっと膨らませて怒ってるが、あまり怪訝さは感じられないぞ。
オレの机と知ってなお、オレの机を利用して着替えるとか……。
しかも、一応胸は隠してるけどいまだ素早く着替えようとしないし……。

 

【???】
「とにかく責任、取って」

 

──その後、オレはどうやって家に帰宅したんだろうか。まったく覚えてない。
裸ワイシャツ的な装い(下着は着てた)の美少女と遭遇して、まさかの責任取って発言。
たしか、歓喜のあまり騒ぎまくってたら厳格でお馴染みの体育教師に背負い投げされたんだっけ……?
でもひとつ確信できる収穫があった。
あの美少女はきっと、オレに気があるに違いない。

 

//暗転

//背景 街路樹(朝)

 

晴天に恵まれた朝がやってきた。
初めて好意を抱かれた日の登校というのは、この青空にも負けないほどの清々しさがあることを知った。
早くあの子の名前を突き止めなければ。
そして、彼女の言う「責任」とやらを言及することにしよう。

 

【???】
「ハル~、おはおはー」

 

【桜路】
「ん? 遠藤か。今日のオレはとてつもなく幸せなんだ、帰りにオマエの好物でもご馳走できるぐらいにな」

 

【???】
「え? いいの? そしたらハルの名義でクレジットカード作ることになるけど」

 

【桜路】
「どんだけ使わせる気!?」

 

【???】
「アハハ、なんだか今日は朝から明るいね。低血圧のハルらしくないな」

 

この歩くたびにぽよんぽよんと巨乳を主張する美少女は遠藤理咲。
彼女の兄とは小学校の頃からの幼馴染みで、そんな兄が妹の面倒を見てくれと押しつけてきたから仲良くなったという間柄。
巨乳ゆえに男子人気はひそかに高いが、男よりも男気を感じさせる一面があるから、現代男子には結構きついかも。
それに目つきがきついからなぁ。
少し目を細めただけなのに、睨まれたと勘違いして謝るメンズが多くいるのが実情だ。

 

【理咲】
「まーたあたしのおっぱいばっか見て」

 

【桜路】
「そんな見てない見てない。オレは昨日、スレンダーもいいかもなってことに気付いたんだからな」

 

【理咲】
「ふーん? でも、男なら愛する女を身体で選ぶなって感じだけどそのヘンどうなの?」

 

【桜路】
「なんでケンカ腰なんだ……。ともかく、オレは昨日までのオレとは違う。いいな?」

 

【理咲】
「第二形態ってこと?」

 

【桜路】
「そゆこと」

 

【理咲】
「どれぐらいの戦闘力アップしたの?」

 

【桜路】
「恋愛戦闘力なら宝くじの一等賞ぐらいの桁になった」

 

【理咲】
「恋愛戦闘力? 童貞力じゃなくて?」

 

【桜路】
「女子が街中で童貞ゆーな!」

 

【桜路】
「まあ、見ておくといい。オレのモテっぷりに今日は脱帽することになるからさ」

 

【理咲】
「なーんか鼻につくな。この怒りは高級化粧品を買ってもらうことで消化するね」

 

【桜路】
「……」

 

//背景 学校・教室(朝)

 

ガヤガヤ。
騒然とする教室に入ると、一斉に飛び交ってくるのが「今日もラブラブだなー!」の言葉。
なんでだろうな。年頃の男女が一緒に行動するのってそんなにヘンなのか?

 

【理咲】
「うっせぇバカ! あたしたちはなんもないっつーの」

 

【男子1】
「行春のいいところを一言!」

 

【理咲】
「あんたらみたいに下半身でものを考えてないとこかな!」

 

【理咲】
「エロいことばっか考えてるヤツがモテるわけないでしょ! モテたいんだったらまず必死に勉強とかしてこい!」

 

【男子1】
「お、おう……」

 

……トゲが鋭い。
ここだ、ここ。理咲の誰であろうと物怖じしない姿勢が、モテない一つの理由だ。
可哀相に。オレみたいに謙虚に努めていれば春がやってくるものの。

 

【桜路】
「おっ、さっそく」

 

【理咲】
「どしたの?」

 

【桜路】
「アレだアレ」

 

指さした方角には廊下からこちらを見ている女子が一人。

 

【理咲】
「あれ……庄司さんじゃないの?」

 

【桜路】

「庄司? あっ、あー! あの隣のクラスの美人すぎるって有名な!」

 

【理咲】
「そそ。庄司魅弓さん。あんた、なんかしたの? すっごい睨んでたけど……あっ、いなくなった」

 

そうかそうか、魅弓さんというのか。
前に地方ローカルテレビの地元の美人調査みたいなコーナーで取り上げられたことのある子だったかな。
学校ではものすごい知名度を誇る彼女だけど、まさか同学年だと思わなかった。
大人びてるし、オレとは次元が違うというか。
でも、そんなオレも昨日と今日とでは次元が違うけどね……ふふん。

 

【理咲】
「なんだったのアレ?」

 

【桜路】
「きっと、どんな美女であろうと人はある感情を手にしたら勉強も手につかないってことさ」

 

【理咲】
「は? ある感情? イケメンを使ってあんたを掘ってやりたいって感情とか?」

 

【桜路】
「たとえがひどい! そういう感情じゃないから」

 

【桜路】
「まあ、ずけずけとオレに偉そうな口利けるにも今の内さ。きっと、敬いたくなるだろうぜ」

 

【理咲】
「腹立つなぁ、なんなの?」

 

//時間経過

 

──その後、時間は経過してもさすがに授業の合間には魅弓の姿はなかった。
隅っこのハンサムがさっきからこっちを窺ってるのが気になるけど……。
ふと、脳裏に遠藤の言葉が浮かんでしまう。
……怖い! ジェンダーフリーは素敵だけどお願いだから玉のついてない子と恋愛させて!
そんなこんなで授業は四時限目に向かう最中だ。
体育の授業のため、オレらは校庭へ。

 

//背景 学校・グラウンド(朝)

 

体育というのは普通、男女別に行うのが通例だと思う。
発育のよい女子の運動姿なんて小学生じゃあるまいし、直視できないだろ……。
けれど、今日は陸上だからまとめて授業をするぞと、熱血体育教師は言った。
陸上は外で行うからわざわざ分散する必要ないからな。
体育教師は女子の身を守る術としてジャージ着用を義務づけた。
ちくしょう、遠藤の巨乳が台無しだ……。

 

【理咲】
「さっきから視線感じたんだけど」

 

【桜路】
「自惚れるな。所詮、オマエなど巨乳の脇役よ」

 

【理咲】
「うっさい。セクハラするなら玉に膝蹴り敢行する」

 

【桜路】
「う、うぉぉ……こぇぇ……! そ、そういうとこだぞ、モテないのは」

 

【理咲】
「モテたって意味ないし。下心で言い寄られても迷惑じゃん」

 

【理咲】
「それよかあんただってモテてないでしょ。ま、友達の胸ばっか見てる男がモテるはずないけど」

 

【桜路】
「それこそ愚鈍だぜ、遠藤。あれを見な」

 

本日二度目の指さし。
今度は窓越しに魅弓がこちらを覗く姿があった。
おそらく窓際の席なのだろう。しかし、なぜ授業中にもかかわらずオレを見つめるのか?
それは──オレのことを好きだからに決まっている!

 

【理咲】
「さっきも見てなかったっけ?」

 

【桜路】
「ふふっ、昨日ちょっと色々あってな」

 

【理咲】
「なに? リコーダーの口の部分舐めたの?」

 

【桜路】
「それは小学生だろ。そもそも高校じゃあリコーダー常備してないし」

 

【理咲】
「それともリコーダーの中を掃除する棒の方を舐めたの?」

 

【桜路】
「それは盲点だった……たしかにあっちの方が体液がいっぱい絡み合って──って、バカやろう!」

 

【理咲】
「出た、ノリツッコミ」

 

【桜路】
「そういうことじゃないんだそういうことじゃ! とりあえず、ちょっと協力してもらえる?」

 

【理咲】
「なにを──キャッ!」

 

最初に言っておこう、遠藤に対する好意はない。
そこにあるのは友情で、だから触れ合うのはある程度は許される関係だと思ってる。
だから、こうして肩を組むのはなんら不思議なことではないのだ。

 

【男子1】
「あ、センセ! またあいつらイチャイチャしてんですけどー!」

 

【理咲】
「なっ!?」

 

【女子1】
「一瞬だけ女の子っぽい顔したの、可愛かったよ~?」

 

【理咲】
「うっさい! 可愛くなんてなくていーの!」

 

【理咲】
「というよりいつまで抱いてんだバカ! さっさと肩を離せー!」

 

遠藤は恥ずかしそうにオレから脱した。
顔は真っ赤で、目が合うと親の敵みたいに睨まれた。
いや、問題はこっちじゃない。

 

【桜路】
「遠藤、あれを見ろ」

 

【理咲】
「なんなの、もう。そんなんで誤魔化そうたって無駄だから」

 

窓辺の魅弓もまた不機嫌で、オレと目が合うと怒った様子で顔を背けてしまった。

 

【理咲】
「あれって……」

 

【桜路】
「そうそう、遠藤の思ってる通り。あの子はまさしく……ふふふっ」

 

【理咲】
「キモッ」

 

【桜路】
「そんなこと言うなよ! 含み笑いくらい自由にさせろ!」

 

【理咲】
「……とりあえず、ハルがあまりにもスケベだから呆れたって顔してたけどね」

 

【理咲】
「どうみてもプラスの感情は見えなかったしね」

 

【桜路】
「そんなことはないだろ? オレの目には嫉妬の炎が見えたぜ」

 

【理咲】
「ハァ?」

 

【体育教師】
「いつまでくっちゃべってんだオマエらは」

 

【桜路】
「げっ!」

 

授業、すっかり忘れてた……。
準備体操がてらの走り込みがもうすでに始まっている。

 

【体育教師】
「独身の俺にラブラブなところ見せつけるとは、覚悟できてるんだろうな?」

 

【理咲】
「ラブラブなんてありえないんですけど! むしろいつも無理やり家に上がられて困ってるくらい!」

 

【桜路】
「ひどい! 親友のオレを外道に売るなんて……!」

 

【体育教師】
「なにが外道だ! 授業態度も含め、オマエら二人居残り対象だぞ」

 

【体育教師】
「居残りがイヤだったらな──とっとと走って全員より早く完走してこい!」

 

【桜路&理咲】
「はいぃぃぃぃぃ!」

 

──結局、オレと遠藤は下から数えた方がわかりやすい順位でランニングを終え、居残りコースへ。
遠藤と責任の押し付け合いをしながら騒げば、また男子らがはやし立てる。
そして遠藤がキレる。
男子言い負かされる。
口が悪いと先生に怒られる……もはや、連鎖だった。
そんなオレを遠くで見ている美女は、こちらを見てかすかに笑っていた。
……間違いない。
やはりはっきりと言い切れる。
庄司魅弓は、桜路行春のことが好きなんだって。

 

//暗転

//背景 街路樹(夕)

 

──放課後、いつもどおり隣には遠藤がいる。
どうしてラブラブとバカにされてなお隣に立てるのか、彼女の男気は男のオレも理解できない。
下駄箱では『ある手紙』を受け取り、遠藤にはそれを見せろとせがまれている。
結果、オレは自宅に帰ることはできずに遠藤の家に招待されてしまう。
……無理やりに家に上がられて困ってるじゃなくて、無理やり家に入れてません?

 

//背景 遠藤家・理咲の部屋(夕)

遠藤の部屋は彼女の性格に相反して可愛らしい。
新旧の可愛いを網羅したぬいぐるみや対応に困るイケメンの抱き枕。
……意外と、女子をしているのだ。

 

【理咲】
「言っとくけど、タカ様には触らないで」

 

【桜路】
「誰だよそれ」

 

【理咲】
「鷹宮凰地──あの有名アイドルゲームに出てくるインテリ系イケメンよ」

 

【桜路】
「なんで凰地って呼ばないのさ」

 

【理咲】
「あんたと被るからに決まってるでしょ。どうしてあたしが寝るときにあんたの名前呼んで抱きつかないとなのよ」

 

【理咲】
「それよか早く見せなさいよ。どうせ不幸の手紙でしょ?」

 

遠藤の目的はオレが受け取った下駄箱投函の手紙を読むことだ。
目的に一直線のとき、二人のときになると視線を気にしない分、遠藤はやたらくっついてくる。
まるで女兄妹ができた気分。
オレの幼馴染みである彼女の兄は相当苦労してるだろうな……あとで挨拶しておこう。

 

【理咲】
「あ~ん、もう、は~や~く~!」

 

【桜路】
「くっつくなって! オレはスレンダーボディを愛してんだから!」

 

【理咲】
「意味わかんないこと言ってないで……とりゃ!」

 

遠藤に手紙を奪われた。

 

【桜路】
「オレより先に読むなよ!」

 

【理咲】
「えーと、どれどれ……」

 

……ん?
遠藤の顔からさっきまでの嬉が消え去って、無になった。

 

【桜路】
「遠藤?」

 

背後から手紙を覗き込む。
そこには──『明日の放課後、あの教室で待ってますから』の文字。
差出人の名前は『庄司』と書かれている。
間違いない……!
明日、告白をするつもりだ……!!

 

【理咲】
「どういうことなの? 今日ちょいちょい意味深なこと言ってたけど、なにかあった?」

 

【桜路】
「まあ、なにかあったといえばあったな」

 

そこで、オレは昨日の放課後に遭遇した出来事を話した。
魅弓が着替えていたこと、そして『責任』発言のこと、なぜかオレの机を使っていたことなどを。

 

【理咲】
「……あのー、勘違い膨らませてるところ悪いけど、女として訂正させてもらおうかな」

 

【理咲】
「まず着替えてたのはそこになにか用があったからじゃない? 誰かと一緒に着替えてたけど、一人遅れたとか」

 

【理咲】
「責任に関しては読んで字のごとくでしょ。知らない男子に下着姿見られたんだから、普通学校に通えないぐらい恥ずかしいよ」

 

【理咲】
「最後に、机を使ってた理由? 別にあんたの机に限らず着替えるなら誰かしらの机使うでしょ。たまたまだよ、たまたま」

 

【桜路】
「ぬぅぅ……そこまでしてオレのモテライフを阻止したいのか……!」

 

【理咲】
「事実を言っただけ! 勘違い甚だしくてキモいから!」

 

【桜路】
「じゃあどうして下着姿のまま着替えようとしなかったんだよ!」

 

【理咲】
「男子に見られてパニックになってただけでしょ。あの人、感情があまり顔に出てなさそうだし」

 

【桜路】
「ぐぅぅ……!」

 

【理咲】
「まっ、どうせ責任を取れってことでなにかやらされるか、ヤンキーの彼氏にボコられるかのどっちかじゃない?」

 

【桜路】
「なにかされるって……まさか、筆おろし!」

 

【理咲】
「キモい! あたしのタカ様の前でヘンなこと言うな!」

 

【桜路】
「ふふふっ、オマエはいつまでもタカ様とイチャつくといい。オレは一足先に、大人になってくるぜ」

 

【理咲】
「うっさい! 死ね!」

 

遠藤がぬいぐるみを投げつけてきた。
そこからできもしない格闘技にシフトし、なぜかオレは背負い投げをされることに。
しかも、そのせいでタカ様が下敷きに……!

 

【理咲】
「キャー! タカ様のパーフェクトフェイスがッ!」

 

【理咲】
「あんたなにしてんのよゴラァァァァ!」

 

いや、オマエがオレを投げたせいですけど!?
遠藤がマウントポジションになり、オレをボコボコに殴り始める。

 

【理咲】
「あんたなんて、あんたなんて嫌いだぁぁぁぁ!」

 

──直後、騒ぎすぎたせいで遠藤兄が入室。
オレの上に乗っかる妹の理咲。
隠れて見えないスカートの中。
若干の着衣の乱れ。
兄は、苦笑いをして「失礼しましたー」と言って去っていった。

 

【理咲】
「まっ、ままままま……!」

 

【桜路】
「ま?」

 

【理咲】
「まずはあたしに責任取れぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

また一つ、オレと遠藤の間に黒歴史が誕生した瞬間だった。

 

//暗転

//背景 学校・教室(朝)

 

──翌日、待ちに待った魅弓の告白を受け止める日だ。
今日も相変わらず魅弓が窓からオレを見ていた。
あの睨むような瞳はオレにしか向けられない。
普段愛想のよい彼女は八方美人なのか、笑顔成分が多めだからあの顔はかなり新鮮。
どうでもいいが、遠藤はあんな出来事があったにもかかわらずオレとの距離を置くことはしない。
「いつ結婚するのとか言われてるから訂正するの手伝ってよ~」と泣き言は言っていたけれど。

 

//時間経過

 

授業の終わりは刻一刻と迫っている。
さっきから遠藤がオレの様子を窺っているが、ヤツはおそらく不幸を願っているに違いない。
大丈夫だ、オレはオレのことを好きな子と絶対に幸せになるぜ。

 

//背景 学校・廊下(夕)

 

──そして、その時は訪れる。
授業終了のチャイムが鳴り響き、SHRが終わるとすぐに生徒たちは帰宅した。
オレはその喧噪さが止むのを待った。

 

【理咲】
「早く行った方がいいんじゃない?」

 

【桜路】
「ああ、そうだな。遠藤も先に帰れよ」

 

【理咲】
「あんたの失恋を慰める出番があると思うから待ってる」

 

【桜路】
「ホント、ねじくれてるなぁ……。まあ、次会うときのオレは今のオレじゃない。非童貞のオレだからな」

 

【理咲】
「学校でそんなことしたら先生に言うから」

 

【桜路】
「なんなんだよ……ったく。じゃあな」

 

【理咲】
「平常心でねー。あんたなら間違いなくフラれるから大丈夫」

 

……まったく、どうしてこう、素直に応援できないのかね。
親友のオレが幸せになろうとしてるのだから、応援してくれてもいいのに。

 

//背景 学校・屋上(夕)

 

屋上に到着すると、一人の少女の後ろ姿があった。
ドアを開ける音に気が付いたのか、スカートをひるがえしてこちらを向いた。

 

【桜路】
「庄司、魅弓さんだよね……?」

 

【魅弓】
「ここまで来てくれたことには、感謝をしてます」

 

【魅弓】
「でも、それとこれとは話が違う。わたしは今日、あなたに責任取ってもらいにきました」

 

魅弓がゆっくり近付いてくる。
その目はオレだけを捉え、他に寄り道することは決してない。

 

【魅弓】
「彼女、いたんですね」

 

【桜路】
「彼女? いやいやっ、いないよ!」

 

【魅弓】
「でも、クラスメイトに聞いたらみんなあの二人は付き合ってるって返答がきましたよ?」

 

【桜路】
「あの二人? あー、もしかして遠藤のこと?」

 

【桜路】
「いや、遠藤はないよ。だって親友だし、そういう関係じゃない」

 

【魅弓】
「昨日、わたしの知り合いがあなたが遠藤さんの家に上がるのを見たそうですが?」

 

【桜路】
「友達なら家にぐらい行くでしょ。それにあいつの兄とは幼馴染みだからなおさらね」

 

【魅弓】
「なるほど……でも、わたしには関係ないか」

 

魅弓は少し手を伸ばせた身体に触れられる距離まで近付いてきた。
ジッとオレを見つめたまま、いっこうに収まらない不機嫌さを露呈しながら。

 

【魅弓】
「今日は紹介したい人がいるんです。話はその後から」

 

──ドアの開く音が聞こえる。
振り返ると、そこには……!

 

//暗転

//背景 学校・廊下(夕)

 

廊下ではボーッと空を眺めてる遠藤が待っていた。
オレの存在に気が付くと、すぐに寄ってくる。

 

【理咲】
「さっ、帰ろ。今日はあんたん家行っていい?」

 

【理咲】
「明日休みっしょ? だからおばちゃんが泊まっていいって言うなら泊まるし」

 

【理咲】
「どうせ悩みとか聞いてほしいでしょ? ね、だからまずは食料調達にゴー!」

 

無理やりオレの手を引いて、遠藤が歩き始める。
まだ、なにも言ってないのにわかった風な感じで。

 

//背景 街路樹(夕)

 

帰り道、コンビニに寄ってお菓子やらスイーツやらを大量に買い込む遠藤。
いつもどおりの遠藤を見ていると、なにもかも幻だったかのようにさえ感じる。
数十分が経過した今でも、遠藤はなにも聞かずオレの隣を歩いてくれる。

 

【桜路】
「どうして、なにも聞かないんだ?」

 

【理咲】
「なんのこと?」

 

【桜路】
「とぼけないでいいよ。オレがフラれたって、本当ならバカにすると思ってたのに」

 

【理咲】
「あ~、フラれたんだ。それはご愁傷様」

 

【理咲】
「言いたくないなら言わせる必要なんてなくない?」

 

【理咲】
「だって、友達が友達の首を絞めてどうするの。恋愛とか学校のことってわかってあげられるの家族じゃなくて友達しかいないのに」

 

遠藤の優しさに胸が痛くなる……。
この子、本当はこんなにも優しかったんだな。

 

【桜路】
「じつは彼氏がいて、着替えてたのはエッチした後だったんだとさ」

 

【理咲】
「うわ~、ちょっと幻滅。清純かと思いきや、やっぱ女なんだねぇ」

 

クラスでオレを見ていたイケメンはその彼氏だったらしい。
エロいことをバラされないから、ずっと監視していたんだとか。

 

【桜路】
「それをバラされたくないから責任取らせようとしたんだって。でも、オレ見てないし何事もなく帰れたよ」

 

【理咲】
「よかったね。でも、いいじゃん。中途半端に失恋するよりは」

 

【桜路】
「失恋なんてしてねぇよ。むしろ、あっちがオレのこと好きなんじゃないかって思ってたぐらいだし」

 

【理咲】
「さすがはプロの童貞。妄想力が違いますな」

 

【桜路】
「……ぷっ、だから下ネタは街中で言うなって」

 

【理咲】
「さっ、今日は初の失恋記念パーティだ! ハルをフッた庄司さんの名前をゲームキャラにつけてボコボコにしよう!」

 

【桜路】
「やることが根暗だよ! でも、今日ぐらいは遠藤と一緒にバカできればいっか」

 

【理咲】
「そそ。ハルにはあたしがいればじゅーぶんでしょ? ねっ」

 

…………。
……今、なんて?
遠藤は多くは語らず、一足先にオレに自宅へ向かった。
なんだったんだろう、今の言葉は……。

 

//暗転

//背景 青空

 

──翌日の朝、年頃にもかかわらずはっちゃけすぎて同じベッドに眠るという黒歴史が加わっていた。
朝起きて、自分のバカさ加減に後悔していた遠藤。
絶対に言うなよと釘を刺されたが、言うわけないだろうに……。
昨日の夜は夜通しでしゃべりまくった。
饒舌な遠藤にはいつにも増して不満や、兄やらクラスの男子やらの愚痴を聞かされるばかりだった。
こればかりは致し方ない。
あまり愚痴られるのは好きじゃないけど、親友の言葉なら聞いてあげるのだ。
それに、昨日は彼女がオレを助けてくれたのだから。

 

//背景 街路樹(朝)

 

今日もやることがないから一緒にいることになったオレと遠藤。
普段は土日はあまり顔を合わせなかったが、どういう風の吹き回しだろう。
女子高生なのに平気で男の家のお風呂に入って、男のパジャマ着てるし。
朝起きたらオレの部屋の掃除してるし。
そして、今朝はオレの布団で寝てタカ様と勘違いしてか、ギュッと抱きついてきたし……。
これは……絶対なにかあるぞ……!

 

【理咲】
「どしたの?」

 

【桜路】
「え? あ、ああ、いや……」

 

【理咲】
「ねーねー、そういえば庄司さんと付き合ってたらどういうデートするつもりだったの?」

 

【桜路】
「デート?」

 

【理咲】
「やってみたいデートくらいあったでしょ?」

 

【桜路】
「んー、清楚系だったから遊園地とかあまり行ったことないんじゃないかなとは思ってたけど……」

 

【理咲】
「遊園地? あっ、いいね! じゃあ、そのデートあたしにプレゼントして!」

 

【桜路】
「はっ、ハァァァ!?」

 

【理咲】
「青春まっしぐらな男女が寂しく友達同士でくっついるだけじゃつまんないじゃん」

 

【理咲】
「ねっ? あたしでデートの練習してみればいいから。行こうよっ」

 

【桜路】
「あっ、ちょっとちょっと……!」

 

積極的な遠藤はオレの意思など構わず、足取りを変えて駅へと向かい始めた。
妙に楽しそうな遠藤。
……そういえば、オレが魅弓にフラれてから様子がヘンだな。
昨日はやけにスキンシップというか、色仕掛けをしてきたし。

 

【桜路】
「……もしや」

 

そういえばクラスメイトにオレの良いところを聞かれたとき、オレのダメなところは一切言わなかった。
普通は見せるのをためらうはずの抱き枕を見せてた。
しかもオレと名前の似ているキャラ。
次々に湧き上がる憶測と、散りばめられていたヒントを手繰り寄せたとき──オレは答えに辿り着いた。

 

【桜路】
「よし、理咲。オレの理想のデートより、オマエの好きなデートをしてやろう」

 

【理咲】
「あっ、あたしの!? いいよ、そんなの。それよりハルのデートを──」

 

【桜路】
「じゃあ、二日かけてデートだ! いいな!」

 

【理咲】
「ええっ!? 練習じゃないの? なんでデートになってるの……って、ちょっと、話を聞きなさーい!」

 

ああ、間違いない。
オレはどうして気付いてやれなかったんだろう。そりゃあ、オレが別の子と付き合ったらつらいよな。
でも、はっきりとわかったから。
遠藤理咲がオレのことを好きだってこと、きちんと理解しているから。