タイトル「いまじんごろし☆」

 

//暗転

 

──人は、なにをもってそれをファンタジーと位置付けるのだろう。
自分の世界にないものをファンタジーとするのか。それとも、ゲームに出てくるようなものをファンタジーとするのか。
エルフ、ゴブリン、オーク、宇宙人──それらすべてをファンタジーとするのだろうか。
そもそもが、ファンタジーという概念は相手によっては通じることはない。
通じない相手のことを、現実主義者(リアリスト)という。

 

【佐々木】
「ここは……」

 

//背景 森(朝)

 

周囲は森であるが、その上空をドラゴンらしきなにかが飛んでいる。
スーツ姿の佐々木はそんな光景を見て、開いた口が塞がらない。

 

【佐々木】
「おれはたしか……会社について、エレベーターに乗り込んだはずだ」

 

【佐々木】
「なのに、どうしてこんなところに。ここは……テーマパークか?」

 

彼の名前は佐々木。
平凡な人生を歩んできて、平凡な家族の中で育ってとても平凡な男だ。
唯一非凡な一面といえば、IT企業のエリートサラリーマンという特徴だろうか。
仕事のためならプライベートの時間を割いてでも仕事のスキル取得に力を注ぐ。
仕事のためならみんなが飲みに行っている間も一人残業して上司の予想を上回る成果を上げる。
そんなドがつくほどの真面目な佐々木の後ろに、カサカサと足音がした。

 

【???】
「動くな!」

 

【佐々木】
「ん?」

 

振り返ると、そこにはゴツい鈍色の鎧をまとった男がいた。
遅れてとんがり帽子を被ったマント姿の少女など、ぞろぞろとファンタジーを匂わせる面々が姿を見せた。

 

【魔法少女】
「ふっふ~ん♪ 珍妙な服を着てるねぇ。燕尾服……ではないね。どこから来たのかな?」

 

【騎士】
「迂闊に近付くな。怪しい袋を手にしているぞ」

 

【佐々木】
「珍妙な格好をしているのはそっちだ。なんなんだ、そんな破廉恥な」

 

佐々木が指さしたのは魔法少女の胸元だ。
テレビでしかこれほど大胆なはだけかたを見たことがない。
いわゆる、コスプレイヤーというやつだろう。
真面目な佐々木にとってはうら若き女性の露出は少し許せないところがあるのだった。

 

【魔法少女】
「なら、わたしのもっとエッチな姿……見たくなーい?」

 

【佐々木】
「……」

 

【魔法少女】
「それとも……魔法で丸コゲにしてあげよっか!?」

 

魔法少女が天に手をかざし、ぶつぶつと独り言を口にし始める。
途端に紫色の輝く魔法陣が出現。
それにならい、騎士たちも身構えた。

 

【佐々木】
「魔法? そんなもの存在するわけない。子供の遊ぶに大人を付き合わせるな」

 

【魔法少女】
「え……?」

 

──直後、魔法陣は消滅した。
魔法少女の手からも、魔法がいっこうに出てこない。
いったいどうしたのか……佐々木以外の面々がざわつく。

 

【騎士】
「ど、どうした……? 魔力が、切れたのか?」

 

【魔法少女】

「わかんない……わかんないよ~~っ!」

 

何度試しても魔法が飛び出すことはない。
騎士たちも詠唱を始めるが、それらしきなにかが生み出される気配すらない。

 

【佐々木】
「よくわからないが……チャンバラごっこだとか騎士だとか、そういうものは子供のすることだ。ふざけてないで真面目に就職しなさい」

 

【魔法少女】
「!?」

 

【騎士】
「うっ、うあ~~~~~~ッ!」

 

──まばゆい光に包み込まれた次の瞬間、場には佐々木以外誰もいなくなった。

 

【佐々木】
「ん? どこいった? 話の途中で帰るなんてどんだけ常識がなってないんだ! おいっ、聞いてるのか!?」

 

【佐々木】
「まったく、最近の若いやつはいつもこうだ。三日坊主どころか一日で退職するのもよくある話だ」

 

返事はない。
しかし、佐々木は魔法少女らが消滅した理由に気付くことなく、延々と文句を垂れ続ける。
そして、油断している佐々木の正面からガイコツのモンスターが走ってきた。

 

【佐々木】
「いつまでハロウィン気分でいるんだ! 大人になれ!」

 

ガイコツ、消滅。
次に、ドラゴンが飛んでくる。

 

【佐々木】
「新型のドローンか? おい、ちゃんと許可取って動かしてるのか!?」

 

ドラゴン、抹殺。
──次から次にやってくる魔の手が、佐々木の命を狙う。

 

【佐々木】
「サキュバス? ただの淫乱の間違いだろ! 自分の身体は大切にしろ!」

 

【佐々木】
「オークだと? そんな気持ち悪いペイントでなにがしたいんだ! 人間であることをもっと誇れ!」

 

【佐々木】
「錬金術士? ただの工作だろ! なんでもかんでも鍋にもの突っ込んで資源の無駄遣いはやめろ!」

 

超現実主義者による幻想破壊の攻撃が止まらない。
佐々木にとっては無意識。
けれども、ファンタジーにとっては存在を否定されるその言葉はどんな爆弾よりも破壊力のあるものだった。

 

【佐々木】
「……全員いなくなった。おれはどうやら嫌われてるようだな」

 

さすがは忘年会で一人だけ声がかからなかった男だな、と佐々木は皮肉に笑う。

 

【佐々木】
「ここにいてももうなにもないか。そろそろ行くか」

 

【佐々木】
「今日は大事なミーティングがあるんだ。プレゼンターの自分がいないと絶対にだめだ」

 

佐々木はため息をついて歩き出す。
腕時計の針はくるくる回って言うことを聞かない。
スマートフォンを取り出してみても電波障害で連絡は取れそうにない。
なにがどうなっているのか。
超がつくほどの現実主義者の佐々木は、現状を不安がることなくむしろ仕事に遅れると苛立った。

 

//暗転

//背景 草原(昼)

 

【佐々木】
「どうなってるんだ……これは」

 

【佐々木】
「おかしいぞ。職場は品川にあるんだ、東京にこんなだだっぴろい自然公園……いつできたというんだ!」

 

【佐々木】
「いや、砧公園……それとも、井の頭か!? いや、こんな無駄に広いだけの公園があってたまるか! どこに税

金を使ってるんだ!」

 

【佐々木】
「そうか……これはきっとおれの功績を嫉むやつらの仕業だ。最近話題のVRというやつに決まってる」

 

延々と続く同じ景色の中にさすがの現実主義者も違和感を抱く。
海外でしか見たことのないような自然公園の規模だ。一面が草原となっているその景色には、現実味がない。

 

【佐々木】
「馬か? 馬の大群……いや、あれは……馬車?」

 

正面から馬のまたがる御者。そして、その後ろに箱のように見える馬車が見えた。
それは佐々木がここにいることをすでに知っていたかのように、とことこと近付いてくる。

 

【佐々木】
「今度は話のわかりそうな人だといいな。また鎧を着ているみたいだが」

 

【王国騎士】
「お目にかかれて光栄です」

 

白髪と白いヒゲが特徴的なダンディな雰囲気の男が声をかけてきた。
さっきの者たちと違い、無駄にテンションが高いなどといった様子は微塵も感じない。
見た目から察するに外国人だろうと解釈。

 

【佐々木】
「話のわかりそうな人が来てくれて助かります。さきほどから、失礼な者ばかりの応対をしていたので」

 

【王国騎士】
「ホッホッホッ、やつらに礼儀を期待するのは難しいですな」

 

【王国騎士】
「噂は聞きました。貴方はあの強大な力を持つ魔王軍の配下を一掃したと」

 

【佐々木】
「まおう?」

 

ぞろぞろと現れる非現実的な装いをした面々。
目の前までやってきたのは、随分と品のよさそうな人たちだった。
何人かは鎧をまとっているものの、その後ろの馬には西洋ドレスのようなものを着用している女性がいる。
今日はコスプレ大会でも開かれているのか──佐々木の疑問は尽きない。

 

【王国騎士】
「貴方の強さは見ずとも強力であるのは明らかです。そこで、最初に一つお願いがあります」

 

【佐々木】
「お願い? わかりました。聞きましょう」

 

【王国騎士】
「貴方の言葉はかなり危険だ。だから、できるだけしゃべらないように努めてほしいものです」

 

【佐々木】
「?」

 

どういう意味だ? もちろん、佐々木自身にあのモンスターたちを一掃した覚えはない。
佐々木はふと思い立ち、スーツの胸ポケットに手を入れる。

 

【佐々木】
「申し遅れました。私、こういう者です」

 

丁寧に名刺を差し出す佐々木。
この世界では謎ともいえるその行動を目にした一行は、困惑を浮かべるばかりだ。
戸惑いながら名刺を受け取った騎士は、その紙に記載された文字に目を細めた。

 

【王国騎士】
「これは……なんて、読むのでしょう……?」

 

【佐々木】
「やはり海外の方でしたか。フランスなどの人の方がサブカルチャーには熱心なようですしね、なるほど」

 

【王国騎士】
「こすぷれ?」

 

【???】
「ところで、貴方様のお名前をうかがってもよろしいでしょうか?」

 

馬車の中から、細い足が覗く。
ゆっくりと足からスカートのフリル、と姿が露呈していく。
そこにいたのは、あまりにも現実味がない美しい女性。
金髪のロングヘアはウェーブをかけていて、現代人にはない品格と清楚さを感じさせた。

 

【ティア】
「はじめまして、私はティルナ・ノーグ王国で王女を務めてますティアです。以後、お見知りおきを」

 

【佐々木】
「は、はじめ、まして……私は、佐々木、です……」

 

【ティア】
「ササキさん、ですね。変わったお召し物ですからきっと貴方こそが真の勇者であるとすぐに判断つきました」

 

【佐々木】
「は、はぁ……」

 

ティアのあまりの美しさに現実主義者も言葉を失った。
まるで全身をダイアモンドで包み込んでいるかのように、それは光輝く存在である。
オフィスの女性職員などとは比較対象にもならない。
いや、彼女たちも充分美しいのだろう。
しかし、この美女はその上を──美しいという言葉の限界を超えた言葉では形容できない、光で輝いている。

 

【ティア】
「貴方になら、きっとこの世界を救えると勝手ながら思っています……。どう、でしょうか」

 

【佐々木】
「世界を救う?」

 

なにをバカなことを──そう言おうと口が動くよりも早く、ティアの八の字を模した眉を見た。
今にも泣きそうで、困っているという心境を露呈した顔。
あの美しい美女が、自分の言葉で傷ついてしまった。
ここはオフィスではない。
ならば、利己心を働かせる必要なんてないのだ。
きっと、なにか違う意味合いの世界を救うだ。彼女が間違うはずなんてない、と佐々木はやや盲目的にそう判断した。

 

【ティア】
「引き受けてくれますか?」

 

【佐々木】
「まずは契約書を作成し、具体的なプランを練った上でクライアントの提案を解決しましょう!」

 

【ティア】
「?」

 

【佐々木】
「ヒアリングは欠かせません。これはおれのスキルが試されるでしょう」

 

【佐々木】
「ああ、しかし本来は顧客の理想に沿ったプランニングをするのが努めです。それを設計、開発、運用するのはおれの仕事ではありません」

 

【佐々木】
「ですが今回は特別です。すべてのステークホルダーが満足いくサービスを提供するのが、おれの仕事ですから」

 

【ティア】
「えっと……、ひっ、引き受けてくださるんですね!?」

 

一瞬、なにを言ってるのかわからないといった表情のティアではあるが、解決するの言葉を理解した。

 

【ティア】
「では、さっそくですが瞬間移動を──」

 

【王国騎士】
「姫様、それが魔法使いはさきほどより突如姿を消してしまっています」

 

【ティア】
「まあ、どうなってるのでしょう?」

 

【王国騎士】
「ですので現在王国で魔法を使える者は一人もいません……」

 

【ティア】
「それならこのまま帰るしかありませんね。ササキ様、どうぞこちらへ」

 

──佐々木は馬車に案内されると、そのまま王国を目指すことになった。
様々なものが現実離れしているが、きっとこれは現実以外の何者でもないと超現実主義者は思う。
VR、テーマパーク、色々なものがこの世界を作り出すことを可能としているから、佐々木の脳内には異世界ファンタジーの単語は出てこなかった。
馬車の中で揺れる道中にて、ティアが名刺について尋ねたので作り方を教えた。
PCがなんなのか理解していなかったから、あとで手作りの仕方を教えると約束するとみんな「メイシ」を欲しがるのだった。

 

//暗転

//背景 城下町(昼)

 

──佐々木が王国を訪れて、早くも数ヶ月が経過した。
時計がないこの世界にも時間の概念は存在するそうだが、それを把握していない佐々木にとってはまだ一ヶ月ぐらいの感覚だ。
先日、佐々木は騎士団長に言われたメモを渡されると、兵隊を率いて魔王の城へと向かった。
そして、たった一言だけ呟いた。

 

【佐々木】
「魔王なんて職業、一銭にもならないぞ。もっと現実を見て真面目に就職した方がいい」

 

超現実主義者の佐々木を前に、魔王など存在しないようなものだった。
『否定』されたモンスターは次々と姿を消し、気付けば残されていたのは仲間の兵隊たちだけ。
大歓声が広がる城内にて、佐々木は勇者として称えられた。
なにが勇者だ。そんな者存在しない──と、言いかけたが事前に騎士団長から渡されたメモを思い出して口にはせず。
そのメモには『女王、騎士、国民など、魔物とは無縁の者は否定するべからず』と書かれていたのだ。

 

【佐々木】
「……で、おれはどうすればいいんだ」

 

【佐々木】
「なぜかティアさんからも隔離されてしまうし……完全に居場所がない」

 

【佐々木】
「そもそも、どうやったらこのゲームは終わらせられるんだ! テーマパークじゃないならゲームだ! ならリセットさせてくれ!」

 

一人騒ぎ出した佐々木を困惑気味に見る住民たち。

佐々木はこの世界の救世主であるが、否定すればその種族もろとも消し去ってしまうという力に周辺の者たちは恐々としている。

 

【佐々木】
「はぁぁ……なんだかんだで、おれの味方はティアさん一人ということか」

 

【佐々木】
「まさかの婿養子入りを要請されるし、おれはいったいどうすればいいのだろう。今じゃただのヒモ男だ。おれに主夫願望はない」

 

【佐々木】
「ティアさんとの結婚は理想的だが、働かない男はだめだ。パソコンがないから仕事ができなくて困るぞ」

 

【???】
「あ、あの……」

 

【佐々木】
「ん?」

 

ふと、控えめな声が佐々木を呼び止めた。
どこから声が──そう思って周辺を見渡すと、そこには明らかに自分とは種族の違う少女が立っていた。
耳が長く、かつ同じ人間ではありえないほどの美しさを有した容姿は、ティアに引き続き目を奪われるものがあった。

 

【???】
「勇者さん、ですよね……?」

 

【佐々木】
「いや……勇者ではない、佐々木だ。それより……キミは、おれになにか?」

 

【???】
「ササキさんですね、やっぱりあなただったんだ……」

 

【佐々木】
「?」

 

【???】
「わたし、シャーロットです。あの……生き残りの、エルフ……です」

 

──エルフ、その種族の名称を耳にしたとき、佐々木は疑問に思った。
数ヶ月の間、佐々木無双によって善悪関係なく人間以外の種族の大半が絶滅した。
ダークエルフと遭遇した際に、その存在を否定して抹消したはず。
にもかかわらずここにエルフがいる。存在を消したあとに同種族が現れるのは初めてだった。

 

【シャーロット】
「……結婚、してください」

 

【佐々木】
「……………………」

 

【佐々木】
「……ん?」

 

聞き間違いか?
いま、なんの脈絡もなく求婚されたように聞こえたが……。

 

【シャーロット】
「両親……魔王に殺されて、わたしひとりぼっち……だから、勇者さんに……いえ、ササキさんしか、頼れなくて……」

 

【佐々木】
「いっ、いやしかし! それと結婚は別の話だ!」

 

【シャーロット】
「結婚すれば子供ができるし……家族、増えるからいいなって……」

 

【佐々木】
「!?」

 

【シャーロット】
「だめ、でしょうか……? やっぱり、王女様との噂はホントなのかな……」

 

完全に翻弄され始めているエリートIT社員もとい、プロの独身もとい、ただの童貞。
美に愛されたシャーロットの一挙一動が目を離せなくて、頭の中を彼女の存在が支配している。
合コンにも行かず、寄り道もせず、ひたすらまっすぐに生きてきた男に訪れた初めての春。
そんな自分より少し離れた年齢の未成年のシャーロットが、この男にとってはあまりにも衝撃的なインパクトを与えた。

 

【佐々木】
「結婚は……早い。知りもしないで結婚というのは昔からの伝統というか、お見合いとして形はたしかにある」

 

【佐々木】
「だがおれには具体的なキャリアプランがある。その実現に向けて日々猛勉強かつ尽力を余儀なくされている」

 

【佐々木】
「そういう理由もあって、おれは結婚はできない」

 

【シャーロット】
「でも、交際はできるんですよね? ね?」

 

【佐々木】
「い、いや……そういうわけじゃ──」

 

【シャーロット】
「決まりですね! やった~! 家族が増えて嬉しいですっ!」

 

【佐々木】
「いやいやいや……家族なんて、いきなり増えるわけが……」

 

しかし、明るく喜ぶシャーロットを前に現実を突き立てることもできない。
佐々木はなかば無理やり、シャーロットとの交際を余儀なくされた。
初めての彼女がまさかのエルフ。
そして、未成年者という中々の際どいライン。ここがオフィスでなくてよかったとつくづく思う。

 

【シャーロット】
「ササキさんは、絶対にいなくならないでくださいね……」

 

【佐々木】
「……」

 

そうか、この子は家族を失っているのだ。
シャーロットにとって、家族を殺した魔王を討伐した佐々木はまさしく英雄そのもの。
自分が親のいない立場だったらどうだろう?
たとえるなら、この子は戦場で両親を失った孤児なんだ。
ならば、その期待に応えられるよう、シャーロットを受け止めるほかない。
可哀相なんて決して思わない。
平等の観点から彼女が自分に出会ったという必然性を、具体的に明確にしないといけない。

 

【佐々木】
「任せてくれ、おれは完璧主義者。絶対にキミも幸せにする」

 

【佐々木】
「キミが生きてきたことを否定なんてしない。だから、生きていこう」

 

【シャーロット】
「は、はいっ!」

 

//暗転

//背景 荒廃した平原(昼)

 

──依然、帰れる気配がまるでない異世界ファンタジーは続いている。
佐々木とシャーロットは道なき道を歩み、目的のない旅を繰り返す。
すべては現実世界に戻るため。
シャーロットは、佐々木が話してくれた現実世界に憧れを持ち、まだかまだかと異世界転生を夢見ている。

 

【シャーロット】
「あの……別に、ササキさんは悪くない、よ? こうなっちゃったのは必然だと思う」

 

【シャーロット】
「人間だって悪いよ。ササキさんの力を悪用しようとしたんだから。ね? ササキさんは悪くない」

 

【佐々木】
「ありがとう……やはり、キミだけはいつまでもおれの心の拠り所だ」

 

【シャーロット】
「ササキさんを思ってるのはわたしだけじゃないよ? 王女様も、同じ気持ちだと思うの」

 

【佐々木】
「まあ、だからこそ逃げてるんだがな。束縛されたら仕事に支障をきたす。キミのような献身的な子じゃない限りはね」

 

【シャーロット】
「ありがとうございます♪ わたしも、現代にいってもササキさん一筋ですっ」

 

二人の距離は見てわかる程度に縮まってきている。
互いを恋人と思い、シャーロット自身も両親を失った傷を癒やしてもらおうとして近付いたことを忘れるほどに。
そんな二人が近付いたのには、理由があった。

 

【ティア】
「ササキ様! お待ちくださいませ!」

 

【シャーロット】
「きっ、きた……!」

 

後方からやってきた一国の王女は、その身分を感じさせないボロボロにやつれたドレス姿だった。
心なしか疲れ切った表情をしていて、しかし、それでも佐々木という男のみを見つめている。

 

【ティア】
「いつか、アダムとイブというお話しをしてくださいましたよね」

 

【ティア】
「今日このとき、その話を私たちで実現させませんか? きっと……私なら、貴方を満足させられます!」

 

【シャーロット】
「大人はそういってエッチなことで誘惑しようと……だからみんな消されちゃったんでしょ!」

 

【ティア】
「なら、どうして私は消えなかったのでしょうね。そこに、このお方からの愛を感じます……うふふ」

 

かつての品のよいお嬢様はそこにいない。
あそこに立っているのは、『女』という性別を誇張した色香を放つ獰猛な王女だ。

 

【佐々木】
「何度謝っても、やはり許してくれないか……」

 

【ティア】
「許すもなにも……消えた人達の魂は還ってきません。だから……私たちで産むしかないじゃないですか」

 

【シャーロット】
「そうやって近付こうとしても無駄だから!」

 

【ティア】
「貴方は別の世界から来たのでしょう!? そして、貴方は帰ろうとしている」

 

【ティア】
「でも、そんなことはさせません! この世界で……二人きりの世界でたくさんの愛を育みましょう!」

 

【シャーロット】
「話を聞けー! どうしてわたしを部外者扱いなの!」

 

【佐々木】
「どうして、こんな目に……」

 

──数ヶ月前、佐々木はエルフであるティアを街から追放しようとしている騎士の一人を消してしまった。
差別感情が許せず、ついカッとなってしまったのだ。
そこから王国騎士が襲いかかり、街中がパニックになったが佐々木のたった一言で静まり返った。
「みんな邪魔だ!」その一言だけで、騎士や街中の人々は一斉に消失。
佐々木の心理が影響してか、唯一生き残ったのはずっと隣にいたシャーロットとティアの二人だけ。
そこでティアは王女という身分を捨てて、子を宿すことに執着し始めたのだった。
人が消えたかつてのファンタジー世界は、剣や魔王すらも失ったただの星。
でも、最上級の美女が二人もいるならこのままでもいいかな、と少しでも翻弄されている自分もいる。
超現実主義者も、一応は男なのだ。