タイトル「エンディングシンドローム」

 

//背景 街中(夕)

 

──幸せと紙一重の過去を思い出した。

幸せ、そう位置付けてもいいだろう。

……が、それはもう地に足をつけられない彼女に失礼だ。

かつての恋人は先立ち、おれだけが取り残された。

それも、今年で4年も昔のことになってしまう。

 

【円城】

「ん……?」

 

路地裏に入っていく白い影がある。

あれは――。

 

【円城】

「ウェディングドレス……じゃないよな? たぶん」

 

……興味本位に、見てみるか。

 

//背景 路地裏(夕)

 

一生に一度のドレスで、どんなとこ入ってんだよ……。

たしかに、ここを通ったハズなんだが。

 

【?】

「久しぶりのお客さんです」

 

【円城】

「……見間違いじゃなかったのか」

 

赤いクロスを敷いたデスクで店らしき幟を立てる路地裏に、それは美しすぎた。

白いウェディングドレスのような格好に、花冠をのせた銀髪の美女が微笑んでいる。

うさん臭い占い師のような店構えをしてるが、彼女だけは正真正銘の美を極めてる。

 

【?】

「ご機嫌よ。……ん? ご機嫌……ご機嫌……あ、ご機嫌よう?」

 

【円城】

「正解。ご機嫌よって、そっちの調子は知ったことじゃない」

 

【?】

「コホン。わたしはエピローグ。終章をお届けすることを生業としています」

 

【円城】

「エピローグ? 終章? なに言って──」

 

【エピローグ】

「わたしの正体はあなたの短い一生じゃ測れませんよ? ふふ」

 

笑顔もまた、美しすぎる。

エピローグと名乗った彼女は、机上に日誌を置く。

 

【エピローグ】

「円城悠一クン……大学生ですね。現在は同じく大学生で幼なじみの島田初と交際中、と」

 

【エピローグ】

「ここ最近は無気力で、島田初の献身的なサポート故になんとか生きている、といった感じでしょうか」

 

【エピローグ】

「質問があるみたいですね。どうぞ」

 

【円城】

「……あ、あんたは一体……」

 

【エピローグ】

「自称、終章演出家です」

 

【エピローグ】

「余命わずかの人のもとに歩み寄り、その者の余生を最高の幸せに溢れたものを演出していく……そんなお姉さんです」

 

余生を、最高の幸せに……?

 

【エピローグ】

「わたし……余命わずかな方にしか、見えないんです」

 

──どん底のおれに、女は一冊のノートを手渡す。

 

【エピローグ】

「これは、あなたに渡します。書いた人に、そう言われてましたので」

 

それは女性ものの手記で、名前は──櫛柳英梨と書かれている。

 

//ブラックアウト

//回想開始

//背景 学校・中庭(朝)

//視点 英梨

 

──4年前。

 

【英梨】

「私……彼氏、いるので」

 

【男子生徒】

「や、やっぱり……そうだったんだ」

 

告白されるのは嫌いじゃない。

ただ、男が嫌いだった。

見た目だけを称賛した、うわべだけの言葉なんてなんの価値もない。

告白を一蹴した私は、すぐに踵を返した。

 

【英梨】

「私は、悠一と幸せになるから……貴方は、別の誰かと……」

 

彼氏の名前は円城悠一。

とくに仲がよかった間柄じゃなかったけど、唐突に私の方からアプローチした。

彼のすべてを包む優しさや、あどけなさの残る性格が好き。

 

【英梨】

「だからね、貴方にも……悠一はあげられない、かな」

 

物陰から盗み見てた子が去っていく。

幼なじみ?

そうはいくか。あの人との幸せは……私のものだ。

 

//ブラックアウト

//回想終了

//背景 円城宅・一室(夜)

//視点 円城

 

狭いワンルームに恋人がやってきた。

おっとりした見た目の初は、一緒にテレビを観る時はよく身を寄せてくる。

 

【初】

「元気ない?」

 

【円城】

「わかる? それも、よくわからん女に死亡宣告されてなぁ」

 

【初】

「なにそれ。うーん、占い師とか……」

 

【円城】

「美人な占い師なんてたしかにうさん臭いよなぁ」

 

【初】

「……なんか複雑」

 

ムスッとして腕を抱く力を強める。

 

【円城】

「大丈夫。胸はあっちのがまな板だったから」

 

【初】

「それ、デリカシーなさすぎ」

 

【円城】

「あだっ! はっ、鼻つねるなよ!」

 

【初】

「貧乳の痛み、わかるのかきさまー。あててんのよ、が言えないんだぞ?」

 

【円城】

「言う必要ある? それ」

 

なんだよそれ、と口にしながら机上の日記を置く。

めざとい初はすぐに目線をそれに移す。

 

【初】

「日記なんて書いてた?」

 

【円城】

「いや、これ……おれのじゃない」

 

──そこで、初に夕暮れ時に出会ったエピローグと名乗る女性の話をした。

余命宣告、個人情報の網羅。

そして──。

 

【円城】

「亡くなった英梨の日記を、渡してきたんだ」

 

【初】

「えっ、英梨……の?」

 

二人して沈黙してしまう。

無理もない。おれらはこの話題を4年間で、触れないように努めてきたのだから。

 

【初】

「読まないの? 前の、彼女のだよ?」

 

【円城】

「今さら振り返ったって……」

 

【初】

「ううん、違うよ。その女の人が渡してきたことと、英梨が日記を残した意味……知りたい」

 

【初】

「余命宣告のあとに渡したなら、なにか意味があるのかも」

 

──こうして、二人で一つの日記を読み始めた。

記憶の中の英梨を蘇らせることに罪悪感を抱きながら。

 

//ブラックアウト

//背景 学校・外観(朝)

 

日記を読み終え、おれは一人記憶を巡ることにした。

初は気分を悪くしたようで体調を崩し、それどころではなくなった。

 

【円城】

「さて、英梨によれば……」

 

英梨の日記には、あれ以外にもメッセージを遺していると書かれていた。

もしかしたら、伝えたいメッセージがあるのかもしれない。

その一つは学校の旧校舎にあるという。

 

//背景 旧校舎・教室(朝)

 

【円城】

「んしょっ……窓、開いてて助かるな」

 

不法侵入だが、バレないよう祈ろう。

 

//背景 旧校舎・廊下(朝)

 

旧校舎は移動教室の授業以外で使われてない様子だ。

静けさと、居心地の悪い空気が肌に這ってくる。

 

【エピローグ】

「こちら、です」

 

【円城】

「え? あれ……今、声が……」

 

見えないなにかに背を押されている。

か、勝手に歩いている……!

傀儡になったように両足が動き、一つの教室を開けさせられた。

 

//背景 旧校舎・音楽室(朝)

 

【円城】

「あれ? 今、鍵かかってなかった……」

 

【エピローグ】

「勝手に開けちゃいました。ご無礼……ではなくて、無礼講ですね」

 

【円城】

「なにしれっと教室に出てきてんだよ……」

 

しかも無礼講の使い時がおかしい。

ピアノの前に、純白のドレスのエピローグが佇んでいる。

一件して幽霊に見えなくもない彼女は、ピアノを指さした。

 

【エピローグ】

「探しにきたのですよね? 櫛柳英梨さんの記憶を」

 

【円城】

「ああ。どうせおれは死ぬんだろ?」

 

【エピローグ】

「そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれません。命は奇跡にまみれていますから」

 

目の前の彼女が人外の者だと理解できてきた今、おれの余命宣告が信憑性を増してた。

もし死ぬのなら、英梨はなぜこの女を頼ったのか、そして伝えたかった思いを知りたい。

 

【エピローグ】

「可能性はありました。けれど、英梨さんはわたしを頼りました。そしてわたしへの代価を払い、英梨さんはこの世を去ったんです」

 

【円城】

「……代価って、なんなんだ?」

 

それは依頼者にしか教えられない、とエピローグはくすりと笑う。

エピローグは鍵盤の前に腰掛けると、ピアノを弾くフリをする。

 

【エピローグ】

「英梨さんは乙女ですね。自分の目線をあなたが考えられるか、信じてもいたみたいです」

 

……そういえば、英梨の趣味は楽器演奏。

ピアノは、時間が空いていれば吹奏楽部でもないのに演奏に参加していたっけ。

 

【円城】

「……あっ!」

 

ピアニストが座った目線の先──音楽家の肖像画が一枚だけ変な場所に取り付けられていた。

 

【エピローグ】

「どうやら、ここを利用してた人も……気を遣って取らなかったようですよ? 埃、ついてないですから」

 

なんでもお見通しと言わんばかりのエピローグ。

言葉はあやふやな癖に、となんだかやれやれといった気持ちになる。

 

//ブラックアウト

//回想開始

//背景 街中(夕)

//視点 英梨

 

──4年前。

私と悠一が付き合い始める、数日前のこと。

 

【英梨】

「私、こういう目線も嫌い……」

 

隣り合う彼と腕組みをしたい衝動を抑える。

彼に迷惑をかけるような真似は、からっきし無縁でありたい。

 

【円城】

「彼女がいてる男でも、やっぱり男って綺麗な人に目を惹かれるんだよな」

 

【英梨】

「……悠一も?」

 

【円城】

「あーっ、いや……ここで英梨のこと綺麗だとか面向かって言ったら居心地悪いでしょ」

 

相変わらずの照れ屋さん。

でも、ここで踏み切ってくれなければ彼との距離が縮まらない。

 

【英梨】

「ねぇ、悠一? 私が汚れてることは……言ったよね?」

 

【英梨】

「虐待……義理のママだけど、あの人を売春させた甲斐性無しの男を、病院送りにしたこと、とか」

 

【円城】

「英梨は悪くないだろ? あれ……ほら、暴力振るわれそうになったとか……」

 

【英梨】

「勘違いしないで。あたし、残してあるから」

 

【円城】

「あっ、ああ……」

 

悠一が恥ずかしげに縮こまってしまう。

なんて飾り気のない言葉を言ってしまったんだろう、私。

 

【英梨】

「男の人なんて性欲まみれ。お金ばっかり。女をなんだと思ってるのって、私たちをバカにしてる」

 

【英梨】

「でも、貴方になら……」

 

私はさっさと悠一の手を引いて、歩き始める。

胸の内の衝動を抑えきれなくなった。

見せつけたい、私という人間を包み込めるのが、彼しかいないということを。

 

【英梨】

「罪まみれなの、私……。でも、どんなに卑下されても構わない……貴方と、幸せになれるなら」

 

【円城】

「英梨……?」

 

──私は公園まで彼を引っ張ると、抱きついてキスをした。

初めての、キス。

私は、見せつけたかった。

ずっと私と悠一を見ていた、あの人に。

 

//ブラックアウト

//回想終了

//背景 円城宅・一室(夜)

//視点 円城

 

──遺された日記は、幸せへの執着心に溢れていた。

おれと過ごした日々と、片思いを始めた経緯も、裏側の物語を覗く気分だった。

エピローグいわく、日記をおれに渡したのは英梨の意向。

なぜ、生前の英梨は死してなお、これを見せようとしたんだろうか。

 

【初】

「……本当に、余命なんてわかるのかな」

 

【初】

「どうしよう。わたし、一人なんてイヤ……」

 

日記を見てから、彼女から笑顔を消してしまった。

これじゃあダメだ……。

むしろ、余命を報せるべきじゃなかったんだ。

 

【初】

「……二人で、知り合ってたんだよ。英梨とわたしで」

 

【円城】

「え?」

 

【初】

「二人とも、悠一が好きだった。でも、わたし……亡くなったとこにつけ込んで」

 

【初】

「そのときのツケ? なんで、わたしは幸せになっちゃいけないの……」

 

【円城】

「…………」

 

英梨の葬式の日に、初が慰めてくれたのが卒業式間際のこと。

温もりを失ったおれを、別の温かさで包んでくれた初を、おれ自身が求めた。

切り替えが早い、と当時は冷ややかな目を浴びてたな。

 

【初】

「ズルいよあの子。亡くなったのに、いまだに悠一の心に住み着いて……わたしから、奪おうとして」

 

【円城】

「……英梨が伝えたかったのは、これだけじゃない」

 

【初】

「……え?」

 

【円城】

「彼女の本心を、おれたちのこれからのために解き明かそう」

 

日記は残り一冊だ。

英梨の幸せの軌跡を紐解かないことには、死んでたまるか、だ。

 

//ブラックアウト

//回想開始

//背景 路地裏(夕)

//視点 英梨

 

──4年前。

 

【エピローグ】

「いいのですか? まだ、死ぬかどうかはわからないのですよ? それに、こんな……」

 

【英梨】

「大丈夫です。私は──今、幸福を掴みたい」

 

【英梨】

「それと、これは預かっておいてください」

 

【エピローグ】

「え? これは……本でも出したのですか?」

 

【英梨】

「クス……日記ですよ。私からの悠一への思い、この世界に遺しておくことにしました」

 

日記は今日見知ったばかりの、美人さんに預かってもらう。

私が男の子だったら十中八九で恋い焦がれる美しい顔は、困惑気味だけどのちに笑顔を見せてくれた。

 

【英梨】

「貴方の演出は、どこまでの幸せを描いてくれるの?」

 

【エピローグ】

「えっと……まだ、交際してないですよね? まずそこから進展させて、貴方が一番望む形に導きます」

 

【エピローグ】

「一緒にいるだけの幸せか、とか……幸せの形は、貴方次第です」

 

【英梨】

「キスはしたから、もっとそれ以上の思い出とか──」

 

心に残りすぎない形が理想だった。

私にとっては幸福だけど、悠一の中を私が染めてしまったらどれだけ彼が苦しむか、不安に苛まれてしまう。

 

【英梨】

「最期は、選べないんですか?」

 

【エピローグ】

「……わたしにもわからないです」

 

【英梨】

「でも、いっか。いつ居なくなってもいいように、色々保険かけておいた」

 

【英梨】

「だから、貴方には彼を──誘導してほしい」

 

【エピローグ】

「うぅ、男性って苦手なんですけどねぇ……」

 

【英梨】

「ふふ、彼は紳士だから大丈夫ですよ。貴方が可愛くたって関係ない」

 

【エピローグ】

「それは女としてのプライドが……」

 

──私は残りの人生を賭けるとともに、最高の幸せを手にした。

学生らしい、デートとか、淡い恋とか、彼の温かさは私を包んでくれた。

命が削られていく中で、私はとあるプレゼントを遺し……この世を去った。

彼がいつまでも幸せなように──。

 

//ブラックアウト

//回想終了

//背景 街中(夕)

//視点 円城

 

──もうじき、クリスマスだった。

今年で最期、か。

初の笑顔を見られるクリスマスを迎えられるのか、不安だ。

 

【円城】

「英梨の日記、見つからないし、どうすればいいんだ……」

 

//背景 路地裏(夕)

 

路地裏に入ると、やはりそこには彼女がいた。

 

【エピローグ】

「……思い出したのですが、あなたは……わたしのこと、どうしたいですか?」

 

出会い頭に意味深なことを述べる純白ドレス。

 

【円城】

「別にどうも? なに?」

 

【エピローグ】

「はぁ、わたしも別にあなたにどう思われてもだったのですが……ちょっと、うぅむ」

 

【円城】

「ところで、英梨の残りの日記はご存じ?」

 

【エピローグ】

「さ、さあ……」

 

【円城】

「日記にな、あんたとのことが書いてあった。つまり、あんたと英梨は仲よかったんじゃないか?」

 

【円城】

「学校で見つかった日記の最後は、あんたに日記を預けようという内容だった」

 

【エピローグ】

「……あの人との約束もありますから、あまり言いたくはないのですが」

 

【エピローグ】

「でも、ここに来たってことは……わたしがキーだって理解したと見ていいんですよね」

 

ため息を一つ、彼女はこぼす。

なんでもいい、英梨の遺してきたものがなにかを知るまでは死ねない。

 

【エピローグ】

「彼女の思いを、いつまでも刻んだ場所から……ヒントがあります」

 

//ブラックアウト

//CG 夕空

 

──エピローグに導かれたのは、墓地だった。

墓地といっても少し通常とは異なる広大な墓地公園。

墓石には一字一字、文字が刻まれていて……。

 

【エピローグ】

「ありました。英梨さん、ですね」

 

//背景 墓地公園(夕)

 

【エピローグ】

「……その様子だと、来たのは初めてみたいですね」

 

【円城】

「死を、受け入れたくなかったから」

 

【エピローグ】

「英梨さんの最期、交通事故みたいですね」

 

【円城】

「ああ、それも飲酒運転の大学生らしい。頭を打って、即死だったらしい」

 

【円城】

「だからこそ、死を看取れなくてホッとしてる自分もいた。彼女の眠りを目撃してたら、おれは……」

 

【エピローグ】

「でも、彼女はあなたになにを望んでるんでしょうか。見てください」

 

墓石に記された一字──『初』の文字。

 

【エピローグ】

「これが答えです。最後のメッセージは……この文字がヒントです」

 

【エピローグ】

「英梨さんは最期、初さんになにかを遺したのかもしれません」

 

【円城】

「……でも、英梨の日記を見たことがないって……」

 

【エピローグ】

「たしかにわたしは日記を受け取り、学校にも日記がありました。けど、最後のメッセージが日記とは書かれてなかったはずです」

 

【エピローグ】

「初さんの知らないうちに、彼女は英梨さんからなにか、メッセージを受け取っているのです」

 

【円城】

「……なんでだ。なんで……」

 

あの時、付き合ってもいなかった初に、なぜ英梨が……。

墓石にこんな文字を刻むことさえも遺言にして、そんなに……。

 

【エピローグ】

「……もうそろそろ、わたしと契約しませんか? 人生楽しくしましょうよ」

 

【エピローグ】

「わたしは死神ではありません。ただ、残りの人生をハッピーエンドに変えたいだけなんです」

 

//ブラックアウト

//背景 円城宅・一室(夜)

 

初は来なかった。

話があるとメッセを送った後での行動だ、なにか心当たりがあるのか。

 

【円城】

「はぁ、英梨ぃ……おれ、どうしたらいいんだ……」

 

死がこんなにも怖いと思ったことはなかった。

エピローグにも不明だという死亡時期に、殺されそうな気分だ。

 

【円城】

「英梨は、最後の最後まで……笑顔だったな」

 

──自分の死がわかってるのに、いつも幸せそうだった。

おれなんて、卒業したら同棲しようなんて、彼女のことをなにも知らないで酷な言葉を言ってしまった。

わかってる。

彼女が遺したかった本当のものが日記じゃなく、抽象的なものであることは。

ただ、それだけじゃない……『初』の文字。

初に、なにか……。

 

【円城】

「……やるしか、ない。おれに出来ること」

 

そうだ。いつか死ぬのは皆条件は同じだ。

だからこそ、手が届く中でおれは、やるしかない。

 

//ブラックアウト

//CG 青空

 

【エピローグ】

「本当にいいんですね? あの、寿命……もらってしまうってことも、言ってなかったと思うのですけど……」

 

【主人公】

「依頼しないと教えられないって言ってたもんな。英梨も、日記に書いてなかった」

 

【エピローグ】

「……あなたの覚悟、ちゃんと受け取りました」

 

【エピローグ】

「では、わたし……あなたの望む物語を描きますね」

 

おれは、おれのためだけに生きるべきじゃないんだな。

英梨、彼女はそれを教えてくれてるのかもしれない。

 

//ブラックアウト

//背景 墓地公園(朝)

 

──数日後。

英梨の墓前に佇む影に、声を掛けた。

 

【円城】

「……人のために明るく、死んでもなんか明るいよな……」

 

【初】

「うん。わたし、あの時は憎くて仕方なかったのに、なんだろうね……」

 

【初】

「知ってる? 英梨と悠一って、亡くなる前に別れてることになってるって」

 

【円城】

「え……?」

 

【初】

「わたしにそう言ってきたんだ。あの子が、もう付き合ってない……。でも、デートだけは、許してねって」

 

それが、英梨が遺したもの……?

いや、そんなハズはない。なにか、初になにか……。

 

【初】

「自分にもしもがあったら、支えてあげるのはあなただって言われて……あの時は、ふざけるなって、怒っちゃって……」

 

【初】

「でも、こういうことだったんだね……。英梨、わたし……」

 

初は膝を抱え込んで座り、弱気な顔を見せる。

 

【初】

「ズルいよ、最期までそんな、いい女みたいじゃん……。わたしなんか、なんも残らないのに」

 

【円城】

「そんなことない。なにも残らないなんて、あるわけないだろ」

 

【初】

「じゃあ、生きてよ。わたしに、他の男と恋愛していいの? ねぇ、浮気だよ? 止めなくていいの?」

 

【初】

「はぁ、そのエピローグさんのおかげで……わたし、二人も……大切な人、失うんだね」

 

……え? 今、二人って……。

 

【初】

「英梨のこと、嫌いだよ。ううん、だいっきらい! 学校で一緒にいて、ずーっと比較されて、それでわたしはいつも下」

 

【初】

「わたしの憧れとか、趣味とか、全部共有しちゃって……しかも、なんで好きな人まで被せてくるの……?」

 

【初】

「見せつけるようにあなたとキスしてたりとか、ホントひどかった」

 

【初】

「でもあの子、最期になんて言ったと思う?」

 

【初】

「悠一のこと、よろしくね……だよ? ほんと、ふざけないでよ……大嫌い、あの子なんて、死んでも好きになれるもんか」

 

【円城】

「落ち着けよ……墓前だぞ、ここ」

 

【初】

「それでも今日までずっと心に残ってたの……だから、嫌いだけど、大切な人、だった……」

 

両腕を掴んで向かい合うも、彼女は項垂れたまま。

その顔には、悔しさや悲しみなど、様々な色が溢れてた。

 

【初】

「あの子がここに遺した文字……わたし、じゃない。これは、わたしを指す言葉じゃない」

 

【円城】

「なにか、知ってるのか?」

 

【初】

「ただ、わかるの。あの子がここにわたしの名前書いて、わたしを大切にしなさいなんてこと、書かないって」

 

【エピローグ】

「終章ですね。よくぞ、二人でここまで」

 

まるで靄に潜んでいたかのように、エピローグが現れた。

手にはノートを持ち、彼女はおれたちの前に立つ。

 

【エピローグ】

「さてと、ここまでが物語です。わたしの描いた終焉は、いかがでしたか?」

 

【円城】

「終焉? 物語? なに言って──」

 

【エピローグ】

「依頼を受けた人の台本が、その人の死までとは誰も言ってません」

 

──心が、静かになる感覚がした。

 

【エピローグ】

「台本の主人公は櫛柳英梨。彼女は削ってももっと長くあった人生をさらに短くして、ここまでの物語を作りました」

 

【エピローグ】

「自分の幸せは、自分だけの幸せじゃないと……最期にそれを理解したと言ってましたね」

 

【初】

「そんな……じゃ、じゃあ、わたし……」

 

【エピローグ】

「はい。あなたがいるから、英梨さんは眠る覚悟ができたみたいです」

 

【エピローグ】

「そして、円城さんが英梨さんを思い出し、英梨さんとの決別をしっかりと出来るかまでが……物語です」

 

エピローグ

「たった今、あなたの中で初さんが英梨さんを上回りました。だから、終章なんです」

 

【円城】

「そっ、そこまでして、どうして寿命を……。おれなんて、ただ、彼女になにも出来なかったヤツで……」

 

【エピローグ】

「あなたはわたしと契約しました。あなたの幸せは、英梨さんのもとへ行くことですか? それとも──」

 

エピローグに手を取られ、そっと初の手を重ねられる。

白く、無垢な手はいつもより冷え切っていた。

 

【円城】

「……おれ、最期くらいは、初を幸せにしたい。初のしたいこと、初と、したいことを……。おれの、わがままだけど」

 

【初】

「わがままじゃないよ。わたしも、ずっと一緒にいたいもん」

 

【円城】

「泣くなよな。ったく、まだ死なないんだから」

 

【初】

「だって……こんな形で、幸せになんて……ぐすん」

 

【エピローグ】

「ふふっ、英梨さん見てますか? ラストシーンの扉、開かせていただきますね」

 

エピローグがノートを開いた。

すると──目映い何条もの光が溢れ出していった。

 

【エピローグ】

「騙してごめんなさい。墓石の文字は──『初恋』って意味です」

 

【初】

「はっ、初恋……!? な、なんなの、これ……ッ!」

 

【エピローグ】

「あなたたちの恋──初恋に変えてあげますね」

 

キュイイイイインと、脳内に……音が、響く。

視界、を覆う光に、身動きが……。

 

【エピローグ】

「サヨナラ。幸せに、なってくださいね」

 

【円城】

「英梨──ッ!」

 

//ホワイトフラッシュ

//CG 青空

 

──1年後。

 

【初】

「ほらっ、もっとしゃきしゃきしなさい!」

 

【円城】

「ごめんな! ちゃんと、夜帰ったらお祝いしよう!」

 

【初】

「気にしないでいいから! ほら、会社間に合わなくなるでしょ!」

 

//背景 街中(朝)

 

【初】

「まさかクリスマスに初出勤なんて、考えなかったね」

 

──おれはフリーター生活に終止符を打ち、会社員になった。

すべては、隣にいる彼女のために。

 

【初】

「あっ、さっきも言ったけど申し訳ないなんて考えないで? わたし、ささやかなお祝いの準備はしておくから」

 

【円城】

「じゃあ、おれからは……そうだな、楽しみにしておいて」

 

【初】

「えっ? なになに?」

 

【円城】

「悪い子にはサンタさんは来ないぞ? ほら、催促しないで待っておくこと」

 

買っておいた婚約指輪は、ちゃんとプレゼントにふさわしいだろうか?

いや、サンタからの贈り物になったらややこしいな……おれから、ってことにしないと。

 

【初】

「……ねぇ、悠一?」

 

【初】

「わたし、誰かにね……この恋を応援してもらって、すごく幸せ」

 

【初】

「顔のわからない誰か。夢の中の住民みたいなんだけど、キレイでね……いつまでも、わたしと悠一を応援してくれるの」

 

【円城】

「へぇ、じゃあ……恋のキューピットなのかな」

 

【初】

「うんっ、キューピットはね……わたしが幸せになると、すごく喜んでくれるんだ」

 

//背景 路地裏(朝)

//視点 エピローグ

 

【エピローグ】

「……さてと、英梨さん? 幸せですか?」

 

わたしは日記を見つめながら、なんか呟いてみた。

そこに誰もいないけど、日記の主に語りかける。

 

【エピローグ】

「ふふっ、わたしもあの二人を騙せるほど文章上手いだなんて、ちょっと自信つけちゃいました」

 

【エピローグ】

「あの日記、わたしが書いたやつなんですけどね」

 

かつて、とある男性に渡した日記はわたしの書いた偽物。

本物は、今でもわたしが持つ、英梨さんが二人の幸せを願った内容のもの。

 

【エピローグ】

「英梨さんの記憶を無くした彼ら、もう結婚するそうです」

 

【エピローグ】

「あ、大丈夫ですよ。彼との契約は取り消しました。だって、これもあなたが仕掛けたフェイス──あ、いえ、フェイクです」

 

【エピローグ】

「嬉しそうですね。さて、わたしも次の幸せ──描きにいきますね」

 

おもむろに立ち上がり、わたしは次の仕事へ。

さよなら、英梨さん。

あなたは最期、理想の幸せを迎えられましたか?