タイトル「ナナシのセカイとフォークロア」

 

//背景 学園・校門(夜)

 

エロい都市伝説と出会いたい。

その一心だけで夜の学園に忍び込み、都市伝説検証をする。

学園生活はエロいサービスのオンパレードかと思えばほど遠い。

だからこそ、あわよくば幽霊さんでもいいからエロハプニングを起こしていただきたい。

お願いします、幽霊さんのパンチラとか希少価値なので、是非。

 

【泰多】

「チョロいチョロい……。さて、やるか!」

 

【凛】

「声大きいわ! バカなのかアンタは!」

 

頭を叩くのは友人の灘凛。

通称『ダーリン』だ。

女子のクセに学園に蔓延るエロ都市伝説調査なんて、中々の淫乱だぜ。

 

【凛】

「……アンタ、私の株が落ちるようなこと考えてない?」

 

【泰多】

「なぜわかる」

 

【凛】

「顔がスケベになってんだっつーの。もう、見境なさすぎ」

 

校舎を目指すおれたち。

後背に山がそびえる我が学舎は、元女子校。

かつてはいわくつきだったそうだが、今は健全な生徒や教師ばかりで問題が起こる気配もない。

健全なんて狂ってやがる。

 

【凛】

「そもそも、どうしてエロになってんの?」

 

【泰多】

「おれに聞くな! それは女子トイレを目指から、トイレのエロい子さんに聞けばわかる」

 

【凛】

「絶対デマだろそれ……」

 

トイレのエロい子さんはスカートにガーターベルトなんていう、そそる格好をしてるらしい。

いますかと尋ねるとちょっと艶めかしい声で返事するとの噂。は、早く聞きたい一心だ。

 

【凛】

「……泰多」

 

【泰多】

「あん? なに足を止めてんだ。早く、エロい子さんのもとに──って、え?」

 

第二校舎の裏手の森より、キラキラと輝く光が見える。

明らかに星ではない大きさの、それもほんのり薄緑っぽい色合いをしてる。

 

【凛】

「見える、よな……?」

 

【泰多】

「間違いなく、な」

 

【凛】

「……こんな都市伝説、あった?」

 

【泰多】

「いいや。誰かの、はげ頭が光ってるわけでもなさそうだし……」

 

【凛】

「調査、する?」

 

【泰多】

「エロくはなさそうだけど、なんか……ある気はする」

 

【凛】

「なにかあったら、ちゃっ、ちゃんと守れよな?」

 

【泰多】

「なにを守るんだよ。おれの貞操? キャー、怖い」

 

──それはそれは、見事な金的だったとさ。

 

//ブラックアウト

//CG 夜空

 

林の中は私有地につき立ち入り禁止なそうだが、突っ切った。

女子扱いせずとも灘はきちんと傾斜を上がり、コケることもない。

光の玉は見えなくなったが、まっすぐ行けば開けた場所に出られるのはわかってきた。

そして──

 

//背景 廃屋だらけの広場(夜)

 

【凛】

「すっ、すご……!」

 

点々と在る廃屋。

昨日の積雪が、ここにだけ取り残されていた。

まるで、この空間はおれらの日常から切り離されたような、そんな雰囲気がした。

 

【凛】

「小屋は、どれもボロボロ……」

 

【泰多】

「まて。一つだけ、屋根がある……」

 

【凛】

「や、やだ……なにかいないでしょうね……」

 

急にひっついて怯える灘。

そんなくっつかれたら、おれは灘の突発的な乙女らしさのが怖い。

好奇心が上回り、自然と歩き出す。

月に照らされてここだけ妙に明るみを持ってるなんて、幻想的じゃないか。

 

【凛】

「もう帰ろ? なにもないって、アンタの好きなもん、なんて」

 

しかし、おれは外観の損傷のさほどない家屋に手をかける。

ここだけ、唯一ドアも残っていて、屋根もある不自然さ。

 

【泰多】

「灘。おれになにかあったら、わかるな?」

 

【凛】

「もっ、もうっ! そんなこと言うなぁ!」

 

今にも泣き出しそうな灘。

駄々をこねるように腕を引かれるも、おれの意思は変わらない。

不安よりも緊張。

緊張よりも、好奇心が渦巻いた。

 

ガチャ──!

 

開いたドアをそっと、手前に持っていく。

どんどん見せられる内部の光景は朽ち果てた床ばかり。

 

【凛】

「……え? あ、あれ……」

 

戸棚があった。

無数のスノードーム。

色とりどり、中身の人形も異なる、様々な世界を模した水球世界。

目を引いたのは、それ以外だった。

 

【泰多】

「……きみは?」

 

白無垢の塊はビクンと震えた。

四つの鎖が伸び、自由をもがれたのは──女の子だ。

毛布一枚で、その向こうはなに一つまとわない肢体だった。

 

【???】

「……さあ」

 

ナナシのごんべえにさあと言われたら、それは返答に困る。

おれと灘は顔を見合わせ、その真っ白な女の子の存在を疑ってた。

 

//ブラックアウト

//背景 学園・校門(朝)

 

──朝が来た。

 

//背景 学園・教室(朝)

 

【悶華】

「そっかぁ。で、泰ちゃんはそのあとどうしたの?」

 

まだ静かな教室で、机に乗っかる姉に質問責めを食らっていた。

冴木悶華。

妙に艶めかしい雰囲気をしているが、一応学生。

で、おれの実姉。

我ながら美人な姉を持ったと中学の頃は自慢しまくっていたのが懐かしい。

そんな言葉をどこで聞いたのか、姉はおれが惚れてると勘違いし──留年しまっくて同学年にまでなってきた。

イカれてる、としか言いようがない姉だ。

彼女、とっくに卒業していて成人も迎えたばかり。

なのに制服姿で、むしろこれはコスプレ──、

 

【悶華】

「まったく泰ちゃんってば、エッチな顔しちゃって」

 

【凛】

「あっ! パンチラするから足組まないでください!」

 

【悶華】

「……ところで凛たん? アナタ昨日、あたしの可愛い弟と夜遅くまで、ホントはなにしていたの?」

 

【凛】

「はい?」

 

【悶華】

「泰ちゃんのブレザーにアナタの匂いがついてた……。それも、腕……しかも、アソコにも~~~~~~ッ!」

 

……そそくさとその場を離れる。

姉は面倒なことに、毎回ああやっておれと絡む女子にいちゃもんつけてしまう。

 

【頭取】

「人気者は大変だね、同志」

 

【泰多】

「し、師匠……」

 

この方は頭取極。

エロを極めすぎて賢者モードを維持し続けてる友人の一人。

エロい都市伝説のことを教えてくれたのも彼だ。

 

【頭取】

「ところで、エロい子さんの情報は?」

 

【泰多】

「いや、それがまったく。昨日は森の奥でヘンな子に会ったけど」

 

【悶華】

「それ、あたしも何年か前に聞いたことあるんだよなぁ」

 

平然と姉が会話に加わっている。

灘が隅っこでどんよりしてるが、はたしてなにをされたんだろう……。

 

【悶華】

「あそこ、たしか……ここに学園ができる前まで、村があったんだ……」

 

【悶華】

「それで、建設の時に揉めて……それ以降は、覚えてないな」

 

【頭取】

「幽霊ということですか?」

 

【悶華】

「ううん。幽霊なら、この子に見えないじゃん?」

 

姉がヘッドロックをかけてくる。な、なぜ?

豊満かつ自慢のF乳が、おれの首筋に久しぶりって感じで優しくしてくる。

 

【悶華】

「ほ~ら、煩悩まみれ煩悩まみれ♪」

 

やばっ、鼻血出てきた……。

チビの時はわざとやらかしてヘッドロックかけてもらおうとしてたっけ……えっ、えへへ、気持ちいい……。

 

【凛】

「絶対アイツら、イケナイ階段登るよ……」

 

【悶華】

「あん?」

 

【凛】

「ごっ、ごめんなさい……」

 

//ブラックアウト

//背景 学園・屋上(夕)

 

頭取とともに、帰宅者がめっぽう減るまで待つ。

一刻も早くエロい子さんに会いたいおれに、師匠である頭取は付き合ってくれたのだ。

なぜか灘も一緒に。

 

【凛】

「ねぇ、泰多? アンタはあれが幽霊だと思う?」

 

【泰多】

「なんの話? あっ、ああ……あの子か」

 

【凛】

「光に導かれて、しかもあんなとこにいるなんて……普通じゃありえない」

 

【泰多】

「この話はよそう。まだ推測しか立てられないしな」

 

【頭取】

「そうだ。新しい都市伝説はいる?」

 

【凛】

「どんなのよ」

 

【頭取】

「音楽室の肖像画が、男の娘になるっていう話だよ」

 

【泰多&凛】

「なっ!」

 

【凛】

「……不思議と、あんま怖くない」

 

【泰多】

「言われてみれば。しかもエロくないし」

 

//背景 学園・廊下(夕)

 

部活動でもないのに調査に名乗り出たおれら、ボランティア精神旺盛。

訝しげに校舎に残ることを了承してくれた教師に感謝。

 

【頭取】

「誰もいない……よしっ、侵入しよう」

 

【凛】

「よしじゃねーよ変態」

 

師匠が問題の女子トイレに入っていく。

恐がりな灘は、相変わらず人の腕に引っつく。

 

【頭取】

「ところで、今朝話した謎の少女とその後は?」

 

【凛】

「私は会ってないけど……アンタは?」

 

【泰多】

「おれも見てない。そもそも、朝は目立つし森に入っていけない」

 

三人で見つけたのは、閉めきった個室。

立て付けが悪いのか、ここ最近は開かなくなったという。

 

【泰多】

「エロい子さんエロい子さん。おれにパンツを見せてください」

 

【凛】

「……」

 

【頭取】

「エロい子さんエロい子さん。そのガーターベルトを穿いたまま、ぜひシャイニングウィザードを」

 

【凛】

「……」

 

──再三のおねだりも、エロい子さんは応答してくれず。

灘のドン引き具合が最高潮のようだが、なにがあったのだろう。

 

【泰多】

「……あ、あれ? 今……なにか後ろ……」

 

【凛】

「や、やだ……怖がらせるなよ」

 

なにか、耳元を横切り、トイレを出ていく気配がした。

振り返ると、光跡が浮かんで見えるような……。

 

【泰多】

「どうやら、呼ばれてるみたいだ」

 

【凛】

「えっ、エロい子さん!? なになに!」

 

【泰多】

「ちがう。ごめん、先に帰っててくれ」

 

灘の腕をそっと解き、光跡の行方を追うことに。

おれにだけ、見えてる。二人はあの光に反応すらしなかった。

……なぜ、おれが呼ばれてるんだ。

 

//ブラックアウト

//背景 廃屋だらけの広場(夕)

 

幽霊なのか。それとも、生き霊かなにかで呼び出したのか。

うすらとした光跡は、あの少女のもとへと導かれてる。

 

//背景 家屋(夕)

 

【?】

「こんにちは」

 

【泰多】

「なんで呼んだ?」

 

【?】

「?」

 

【泰多】

「まあ、いいや。上がるぞ」

 

スノードームだらけの一室。

市販の瓶で作られたそれらは、一流の出来映えだと素人目にもわかる。

毛布一枚しか羽織らない少女が、どうしてこんなことを……。

 

【泰多】

「名前は?」

 

【?】

「……さあ。呼ぶ人も、いないからべつに……」

 

【泰多】

「……じゃあ、ナナシさん」

 

【?】

「……かわいくない」

 

【泰多】

「ナナでどうだ? ナナシだからナナ」

 

【ナナ】

「それでいい。ナナ、かわいい」

 

少しだけはにかんで、それからすぐに視線をスノードーム作業に戻す。

毛布の下は素っ裸なわけだけれど、なぜ興奮しないんだろうおれは。

 

【ナナ】

「作る?」

 

【泰多】

「え? あっ、じゃあ……」

 

正面だと見ちゃいけない場所も見えるだろうから、隣に座る。

瓶を渡され、容器に入れられたスノーパウダーが置かれる。

 

【ナナ】

「かんたん。人形は、ボンドでスポンジと固定させて……」

 

唐突なスノードーム作り。ナナは、その時だけは饒舌となった。

冷え切った手が重ねられ、身を寄せられてしまうとドキッとする。

姉の爆乳に慣れたおれが、なぜ柔らかさの乏しいナナに緊張するんだ……!

 

【ナナ】

「……どうしたの?」

 

【泰多】

「……ああ、なんでも」

 

【泰多】

「ところで、どうしてここにいるんだ?」

 

【ナナ】

「わたしは……慰み者、だから」

 

【泰多】

「え……な、慰み、者……?」

 

【ナナ】

「パパとママのために、ずっと……ここで、夜をまってる」

 

姉曰くで廃村であるこの場所は、現在でもなんらかのやりとりが行われているのか。

なぜ、ここでナナを拘束までして、情交をしなければいけないんだ。

 

【ナナ】

「助けちゃ、ダメ。わたしを助けようとした人……前に、死んだ」

 

【泰多】

「死んだ!?」

 

ナナの手が添えられ、土台を得た一つの人形が透明な瓶に入る。

両手を広げた儚げな少女。それがスノーパウダーにより、雪空を見つける作品になる。

 

【ナナ】

「だから、あなたも助けないで」

 

手中のスノードーム。収められた人形が妙に寂しげに見えた。

そんな辛い半生を、どうして微笑のまま語れるのか、おれには理解できない。

 

//ブラックアウト

//CG 青空

 

──翌日。

夕暮れ時、俗に言う逢魔が時までナナと一緒にいたわけだけど、姉にはこっぴどく怒られた。

姉の悶華は通常の生徒、教師よりも前にいるから学園を取り巻く状況を知ってる。

でも、姉が言うには村と学園の裏取引的なものは、一切聞いたことがないという。

無論、死者もいたことがないらしい。

では、ナナは何者なんだ?

 

//背景 冴木宅・泰多の部屋(朝)

 

学校への支度中、姉の暴走が始まった。

暴走とは名ばかりで、変態的に人のベッドで匂い嗅いで悶えまくってる。

 

【悶華】

「ハァ、ハァ……ハァァァァァァァ!」

 

【泰多】

「姉さん、あまりやりすぎると怖いよ」

 

【悶華】

「泰ちゃんはあたしのものなのにっ、あたしのものなのにィィィィ!」

 

【悶華】

「どうして毎日毎日女の匂いつけるの!? あっ、あたしはずーっと高校卒業までまってるのに!」

 

【悶華】

「そういえば高一のときの奈々子もそうだった! あたしの泰ちゃんの話したら興味持って……うぉぉぉぉッ!」

 

姉曰く、おれが卒業したら手を出すつもりらしい。

その時は灘が止めると言ってるので、一応安心。

悶華なんて名前のせいで、と思ってたがおれが中途半端に美人なんて褒めなければ、普通の女性だったのだ。

……姉と比べると、やはりナナは子供っぽいな。雰囲気は真逆だけど。

 

【悶華】

「……ところで泰ちゃん?」

 

【泰多】

「んー?」

 

【悶華】

「どうして勝負パンツなの?」

 

着替え途中のおれの尻を、ジーッと眺めてくる。

 

【悶華】

「……まさか、凛たんと……」

 

【悶華】

「ちっくしょーッ! その前にアイツの貞操奪ってやるぅぅぅぅッ!」

 

【泰多】

「そもそも男の勝負パンツってなんだよ」

 

リアルに灘の貞操を奪いかねないので、なだめておく。

ちょっと汚された灘も……ぐふふっ。

おっと、危ない。

人間として終わるところだった。

 

//CG 青空

 

──登校。途中で灘と会い、またも姉との舌戦。

おれが好かれてる上での言い争いならまだしも、なぜケンカに発展するんだか。

こんな輪に、ナナも入れてみたい。

冷え切った手のひらの感触を覚えてるから、なおさら温かさに触れさせたい一心があった。

 

//ブラックアウト

//背景 学園・廊下(夕)

 

わいわいと賑わう教室。

帰宅もせず惚けていると、すぐに灘がやってきた。

なんだかんだ、人の様子を気にしてるのはいつも彼女だ。

 

【凛】

「昨日、どうだったの?」

 

【泰多】

「んー、あの子の名前はとりあえずナナになった」

 

【凛】

「さっきからちょいちょい聞いてるけど……記憶喪失?」

 

【泰多】

「それだったら、自分を助けようとして死んだ人の話とか、家族のことなんて出てくるか?」

 

【凛】

「知らないよ。名前忘れたことないし」

 

ストローで吸ってるパックのコーヒー牛乳を、灘が差し出す。

相変わらず、男女間の色々を理解してない行動だ。

 

【泰多】

「そういうの、おれ以外にもするわけ?」

 

【凛】

「しないよ気持ち悪い。友達なら、これくらい普通じゃん」

 

すると、灘がアッという表情を浮かべる。

 

【凛】

「そうそう友達とかから聞いてきたんだけど、ここに学園ができる前に……色々あったみたいよ」

 

【泰多】

「色々?」

 

【凛】

「よくある騒動よ。あそこの廃村と、もう一個学園の校庭部分に村があったんだ」

 

【凛】

「で、こっち側の村が土地を売り払った時に、学園建設の計画が出た。ただ、校庭だけだと狭いじゃん?」

 

【泰多】

「なるほど……。それで、あっちも」

 

ダム建設によく聞く騒動があったのだろう。

当時は女子校で、風化したのかおれの耳には届いてなかった。

 

【泰多】

「いや、まて。あの村は壊されてないだろ」

 

【凛】

「学園が作られる前まで、ちゃんとした道があったんだと思う。それが、学園建設であの村は隔離されたんだ」

 

ナナは、ずっとあのまま取り残されていたのだろうか。

それならば、どれだけ寂しい生活をしていたんだ。

 

【凛】

「で、あの子に関しては……よくわからない。色々聞いてみたけど、人身売買みたいな噂は聞いたことないって」

 

【泰多】

「そうかぁ……でも、なんでそこまで聞いてくれたんだ?」

 

【凛】

「え? だって……いつまでもなにかに囚われたアンタ、つまらないじゃん」

 

【泰多】

「なんだ、好きなんじゃないかって期待したのに」

 

【凛】

「そうさせたいなら、好きになってもらえる努力しろよな」

 

あとは、ナナから直接聞くしかないか。

おれは、今日やらなければならない気がする。

また、あの光に呼び止められるなら、自分から行く他ない。

 

【凛】

「泰多? あの……危ないマネは、やめな?」

 

【泰多】

「灘……。そんな女の子らしい顔やめて」

 

【凛】

「惚れんなよ?」

 

照れ笑いが可愛いが、それは友人に向けた可愛さだと思う。

ポンッと二回、灘の頭を叩き、ナナのもとへ。

普通の女の子は、これくらい人らしさがあるものだと思ってる。

ずっと姉に可愛がられ、灘とも一緒にいたからこそ、人と人との向き合いにおける感情を理解してる。

だからこそ、あの空間には人ならざるなにかを感じずにはいられなかった。

 

//ブラックアウト

//CG 夕空

 

──ナナのもとに着くと、彼女はおいでと手招きした。

白樺に似た細い両手は、鎖に繋がっている。

 

【ナナ】

「今日も、ふたりきり」

 

【泰多】

「一緒にまたスノードームか? 今日は外に出ないか?」

 

【ナナ】

「いい。あなたの匂い、もっと感じたいから」

 

//背景 家屋(夕)

 

向かい合うことは許されず、また寄り添う。

壁一面のスノードームは、なんだか工房を連想させる。

 

【ナナ】

「昨日とちがう……。なにかした?」

 

【泰多】

「なにもしてないけど、ある程度の話を聞いた」

 

【ナナ】

「話? それ、聞かせて」

 

少しだけナナが距離を詰める。

見知ったばかりの二人の距離感じゃなく、彼女にとってのパーソナルスペースはおれにさえ恋人の距離らしい。

おれは話す。

学園建設のこと。村が一種のクローズドサークルのような環境に陥ったこと。

 

【ナナ】

「でも、わたし生まれてない」

 

クスクスと、ナナが笑う。

彼女の言う通り、この話そのものにナナとの関連はないと思う。

 

【泰多】

「仮にだけど、このスノードームがナナの自己主張だと考えると……なんだか、そういうの、浮かんでこない?」

 

【ナナ】

「死人かもってこと? ふふ、死人に死人と言うなんて、酷」

 

【ナナ】

「……わたし、死んでない」

 

【ナナ】

「身体繋げて、確かめてみる……?」

 

ナナがグッとを身を寄せてくる。

腕にひっつく感触は貧相だが、いつもより人肌を覚える体温だ。

おれの予測は、外れなのか? ナナを死人で、おれになにか伝えたいものかと思っていたが……。

 

【ナナ】

「わたし、色んなことしてきた」

 

その言葉が、妙に凄艶でドキッとした。

 

【ナナ】

「ある時は獣のように……ある時は、優しさを偽り……わたしに乱暴した」

 

【泰多】

「……い、いまは?」

 

【ナナ】

「されてない。わたし、忘れられてるから」

 

人懐っこい小さな手のひらが、おれの膝を撫でる。

そのまま寄り道でもして鉄柵を飛び越えるようなマネをされたら、感情の抑制が利くかわからない。

 

【ナナ】

「ずっと、いっしょにいてほしい……」

 

【ナナ】

「わたしは、ここから逃げ出せない。あなたが、いてほしい」

 

その瞳は闇を知ってる。見つめていたら、飲み込まれそうなほどの渦が轟いてる。

この女……誘ってる。

おれがいかにエロ狂いで、エロを求めてるかを知られてる。

 

【ナナ】

「あなた、どこで道を間違えたのかな……ふふふ」

 

【ナナ】

「アハハハハハハハハハ!」

 

【泰多】

「やっ、やめろッ!」

 

とっさにナナの手を振り解き、外へ出た。

 

//背景 廃屋だらけの広場(雪)

 

【泰多】

「なッ!」

 

【奏多】

「はっ、春だぞ? なんで、雪降ってるんだよ……!」

 

どんよりと重たい曇り空に、雪ははらはらと舞い落ちる。

 

【ナナ】

「やっと捕まえたんだから……逃がさない」

 

振り返ると、家屋からナナが出てきていた。

病的な細い手足に錠をつけ、こちらに微笑んでくる。

 

【ナナ】

「妊娠しないし、迷惑もかけないから……あなたの、隣にいさせて」

 

【泰多】

「おまえは、なんなんだ……!」

 

【ナナ】

「言ったでしょ? 死人ではないって」

 

【泰多】

「死んでない……なのに、なんで亡霊みたいに……」

 

逃げ場がない。廃村を中心とした円形の輪が包んでるのか、前へ進めない。

まるで、スノードームに閉じ込められた気分だ。

不自由な世界でおれとナナが、外部から傍観でもされてるのか。

 

【ナナ】

「お願い……逃げようなんて、悲しいことしないで」

 

【ナナ】

「わたし、ずっとつらかったのよ……?」

 

【泰多】

「……え?」

 

ふと見せた、ナナの人間味。

ゾンビのように歩み寄る彼女の顔もまた、悲しげだ。

 

【ナナ】

「ずっと、おもちゃだった……。ずっと、自由をもがれてた。わたしには、手も足もあるのに……」

 

【ナナ】

「好きでもないヒトの子、孕んで……すぐ、堕ろされて……なにを糧に生きればいいの?」

 

【泰多】

「ナナ……」

 

【ナナ】

「ナナじゃない! わたしはっ、名前を捨てられた……あのヒトの性道具なんだからッ!」

 

【泰多】

「ちがうっ! ナナだろおまえは!」

 

ビクッと華奢な身が震える。

一筋の涙は、生身の女のものとしか思えない。

 

【泰多】

「閉じ込めたければ閉じ込めてくれ。でも、ナナはここにおれを閉じ込める気なんてなかったんだろ?」

 

【ナナ】

「そんな根拠のない自信で、わたしを語らないでよ」

 

【泰多】

「閉じ込める気があったら……昨日、すでにそうしていただろ?」

 

ブレザーを脱ぐと、それをナナに抱かせる。

いくらなんでも、こんな寒空の下で少女に恥ずかしいカッコはさせられない。

 

【ナナ】

「……なら、逃げないでくれればよかった」

 

【ナナ】

「最後にぜんぶもってくなんて、ずる」

 

【泰多】

「いっ、いや……」

 

まさか、とっさに閃いた言葉なんて言えないしな……。

ナナはブレザーをギュッと抱きしめ、鼻をあてる。

 

【ナナ】

「……迎えに、きてくれる?」

 

【泰多】

「え?」

 

──途端に、ナナの顔は近距離にあった。

キス。

唇同士が触れてる感触がする。ナナの冷たい肌が触れ合っていた。

 

【ナナ】

「汚れた女で、ごめんね……」

 

【泰多】

「そんなこと……ないぞ」

 

そっと離れると、ナナは目尻を拭う。

 

【泰多】

「背伸び、可愛かった」

 

【ナナ】

「なにそれ……」

 

//ホワイトフラッシュ

 

──なにか、視界に強烈な違和感が生じる。

近いはずのナナが、遠く感じる。

 

【泰多】

「なっ、ナナ!?」

 

【ナナ】

「ようやく、解放される……」

 

うまく声が聞き取れない。

ひどいノイズと定まらない視界が、痛みに変わる。

色濃くなる白に染まるナナ。

最後、彼女の緩んだ口はそっと動いた。

──ありがとう。

たしかに、ナナは、そう言っていた。

 

//ホワイトアウト

//CG 青空

 

──トイレのエロい子さんのついて、新情報あり。

エロい子さんはなんと、小便をしてる時にナニの大きさ次第で鼻で笑ってくるという。

めっちゃ興奮する……笑われたいし、褒められたい……!

興奮を抑えきれない頭取は、さっそく都市伝説検証同好会の発足を計画。

何気に乗っかるおれと灘がいる。

あ、おれは何気じゃなかったか。

 

//背景 学園・教室(朝)

 

【凛】

「アンタのこと介抱してからずーっと恋人疑惑はやし立てられて困ってんだけどー?」

 

【泰多】

「なんだ藪から棒に」

 

【凛】

「なんだじゃない。アンタが春先によ、校門の前で倒れてたでしょ? そのときよ」

 

思い出した。二ヶ月前だろうか、なぜか校門前で倒れてたらしい。

そのとき、心配そうな顔の灘が支えてくれて、そこを新聞部のヤツに撮られた。

……あのとき、おれはたしかにナナという少女と会っていたはず。

なのに、灘たちはその記憶を持っていない。

なんだったんだろうか。

 

【凛】

「ジョーダンじゃない。泰多が恋人だと私まで乱れてると思われちゃう」

 

【頭取】

「泰多の場合、姉と絡んだらもっと大変なんだ。支えてやってくれよ」

 

【凛】

「いっ、いや私……まだ、バカ騒ぎしたいと言うか……」

 

なにをマジ照れしてるのだろうか、可愛いヤツめ。

同好会の紅一点なんだから、もっとしっかりしてくれないと困る。

トイレのエロい子さんは、灘の助力なくして真相を掴めない。

 

【頭取】

「ん、なんだろう。下級生かな?」

 

賑やかな教室に、息を切らした女子生徒が入ってくる。

 

【女生徒】

「あ、あのぉ……ハァ、ハァ……!」

 

女生徒と目が合った。

 

【女生徒】

「今すぐ会いたいって人が……ハァ、校門に……」

 

言われて窓から外を見渡す。

灘と頭取は訝しげに、おれに続く。

 

【頭取】

「あれ、知り合い……?」

 

──校門前には、たしかに人の姿があった。

影は二つ。

まずは姉がいた。

姉がパタパタと手を振って、こちらの存在に気付いてる。

 

【凛】

「知らないの? 前から泰多に会わせてくれって、学園に手紙よこしてたんだぞ?」

 

彼女は、姉の友人だった。

姉が一年生の頃、人里離れたあの山奥の小屋で父に虐待を受けていたそうだ。

それで、あの空間に怨念を持っていたんだろう。

父に虐待を受けたから、その自分を救ってほしかった。

自分を救いにきた母が殺され、なにもかも失ったのが寂しかったんだ。

だから、生き霊としてあの小屋に……。

 

【泰多】

「おかえり、奈々子さん」

 

色白の麗しい容姿は相変わらず。

けれども、かつてと違う明るい笑みで、手を振ってくれた。